



























米国エネルギー省のジェネシス・ミッションにおける重要目標の実現に向けた基盤を築く
量子中心のスーパーコンピューティング・アルゴリズムにより、豊富なエネルギー実現のボトルネックであり、古典コンピューター単独では長年解決ができなかったトリチウム抽出に挑む
2026年07月9日

【米国ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツ - 2026年7月6日(現地時間)発】
オークリッジ国立研究所(ORNL)、クリーブランド・クリニック、IBMの科学者チームは、核融合エネルギー用燃料の生成に有望な材料について、9種類の分子構造を計算することに成功したと発表しました。これは、量子コンピューターを用いてこうした計算を実施した世界初の事例です。
この成果は、新たにarXivに掲載された論文で実証されたものであり、古典コンピューター単独では大規模に扱うことが難しい計算課題です。これは、提案されている大半の核融合炉で核融合エネルギー生成に必要となる、自然界には極めて希少な物質であるトリチウムの生成および抽出を最適化するための重要な第一歩です。十分な量のトリチウムを確保することは、核融合発電所によるクリーンで豊富なエネルギー実現に向けた長年の課題であり、この課題の解決は米国エネルギー省(DOE)のジェネシス・ミッションにおける重要な目標の一つです。
量子コンピューターは、フッ素、リチウム、ベリリウムを含む液体塩(FLiBe)の原子レベルの化学計算に適しています。FLiBeは、核融合炉におけるトリチウム燃料の抽出材料として有力な候補の一つです。チームは、FLiBeクラスターのさまざまな構造を計算するために、現在クリーブランド・クリニックと進めている12,635原子規模のタンパク質シミュレーションにも用いられている量子中心のスーパーコンピューティング技術を使用しました。これらの手法は、複雑な材料における電子の量子的な振る舞いを計算し、古典スーパーコンピューターやアルゴリズムの能力を補完・強化します。
オークリッジ国立研究所 コンピューティング・計算科学部門 科学連携部門長のトム・ベック(Tom Beck)氏は、次のように述べています。「ジェネシス・ミッションが促進する技術的能力を実証するため、私たちはDOEの7つの国立研究所、4つの大学、3社の産業パートナー、そしてクリーブランド・クリニックの第一線の専門家からなるチームを結成し、溶融塩核融合ブランケット材料におけるトリチウム生成の最適化を目指した多面的な発見サイクルに取り組んでいます。IBMが開発し、AIとエクサスケール・コンピューティングによって強化された量子コンピューターは、核融合炉の燃料に十分なトリチウムを生成するために必要な発見・設計プロセスを加速する重要なツールです」
クリーブランド・クリニックのスタッフ・サイエンティストであり、本論文の責任著者であるケネス・マーツ(Kenneth Merz)博士は、次のように述べています。「この研究は、12,635原子規模のタンパク質を含む複雑な生体システムの大規模シミュレーションにおけるこれまでの成果を基盤とし、それらの技術を材料科学へ拡張することで、核融合関連システムをより高い精度と効率で探究するものです。クリーブランド・クリニックでは、先進技術を活用して科学的理解を深め、発見を加速させることに注力しています。この協業は、量子コンピューティング、AI、高性能コンピューティング(HPC)が、科学的探究のための重要なツールとなりつつあることを示しています。これらの技術を組み合わせることで、研究者は現実世界の複雑な課題に対し、より迅速かつ高精度な解決策を提供できるようになります」
IBMのQuantum-Centric Supercomputing担当CTOであるジェリー・チョウ(Jerry Chow)は、次のように述べています。「量子コンピューティング、AI、古典コンピューティングを融合することは、社会が直面する最も根本的な科学的課題に取り組むうえで不可欠です。これらを組み合わせることで、それぞれ単独では実現できない能力を引き出すことができます。この成果は、量子中心のスーパーコンピューティングが、長年にわたり化学者、エンジニア、材料科学者を悩ませてきた課題に対する実用的な科学ツールとなりつつあることを示す新たな証拠となるものです。量子コンピューターの規模拡大が進むにつれ、その可能性はさらに広がっていくでしょう」
この研究は、DOE傘下の17の国立研究所に設置された主要な科学装置と、高性能コンピューティング(HPC)、AI、量子コンピューティングを連携させ、科学的発見を加速するというジェネシス・ミッションの幅広い目標に沿ったものです。IBMは同ミッションの産業協力パートナーの一社として、CPU、GPU、QPUを組み合わせ、それぞれ単独では解決が難しい問題に取り組む量子中心のスーパーコンピューティングの可能性を、パートナーと共に探究しています。複雑な材料相互作用を精密にモデル化することで、広く実用化された核融合発電所向けの燃料供給の実現をはじめとする重要な国家課題の解決に、この技術がどのように貢献できるかを研究しています。
強い中性子照射、極度の高温、磁場の影響を受けて組成が絶えず変化するFLiBeの最適な配合を見出すことは、現在の科学および工学における最も困難な課題の一つです。そのためには、エネルギー特性、安定性、トリチウムとの相互作用などの量子力学的特性を詳細に研究し、高温環境下でトリチウム増殖材料としての機能を含む複数の役割をどのように果たすのかを理解する必要があります。現在、このような研究は困難かつ高コストな実験、あるいは精度に限界のある古典コンピューティングによる近似計算によってのみ実施可能です。
チームは、トリチウムの有無によるさまざまなFLiBe構造のエネルギーを計算するために、量子中心のスーパーコンピューティングを活用し、量子コンピューターと古典コンピューターを連携させました。この手法では、問題のうち、量子回路として表現できる部分を量子コンピューターで処理します。これにより、材料の電子構造や原子の振る舞い、特に分子レベルでトリチウムとどの程度強く結合するかを、より高い精度で明らかにすることができました。さらに研究チームは、原子が変化する構造の範囲を特定するとともに、各構造がどのような仕組みで、どの程度強くトリチウムと結合するかといった、従来は把握できなかった特性を明らかにしました。
この協業は現在も継続しており、量子コンピューティング環境と古典コンピューティング環境間でのデータ転送時間の短縮や、シミュレーション可能な分子相互作用の規模拡大に取り組んでいます。最終的には、核融合エネルギー分野全体がこのワークフローを直接活用し、自ら材料を設計・検証できるようになることを期待しています。
今回の成果は、IBMの量子コンピューターが実用的な科学ツールとして成熟しつつあることを示す、2026年に達成された一連の成果に新たに加わるものです。これには、実在する磁性材料のシミュレーション、これまでに類を見ない半メビウス型分子の創製、そして最大12,635原子からなる生物学研究関連タンパク質のモデリングが含まれます。
本研究の詳細については、以下のブログをご参照ください。
ブログ(英語): https://www.ibm.com/quantum/blog/molten-salts-fusion-quantum
本資料は、2026年7月6日(現地時間)にIBM Corporationが発表したプレスリリースの抄訳をもとにしています。原文はこちらを参照ください。
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