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- 京大×Mashing UP「誰ひとり取り残さない」を、建前で終わらせない。今、身体感覚を取り戻すべき理由
女性管理職比率や男性育休取得率など、数値目標を掲げて組織改革に取り組む企業は多い。
目標数値は達成、研修を通じてDEIの知識は頭に入っているはずが、本当の意味でDEI(多様性と公平性、包摂性)を企業カルチャーにしっかりと結びつけられている企業は少ないようだ。企業内で違和感を感じる現場や担当者から漏れ聞こえるのは「数字は達成しても多くの社員がDEIを自分事化できていない」「腹落ちしていない」という呟きだ。
「京都大学コミュニケーションデザインと DE&I コンソーシアム」は、「『誰ひとり取り残さない』を、建前で終わらせない。」をコンセプトに掲げ、多様な立場や経験を持つ個人・企業・団体が、それぞれの現場でDE&Iを形にし、知恵を持ち寄るコミュニティだ。
アカデミックな背景を活かし企業と共同で行うリサーチやワークショップなど独自のアプローチでDEIの課題に向き合っている。同団体を率いる蓮行さんは、京都大学経営管理大学院 特定准教授という肩書きのほかに演劇人としての顔も持っている。演劇の手法を用いたワークショップが「身体感覚を伴ってDEIを理解する」ことに役立つという同氏に話を聞いた。
演劇的手法が突破口に

例えば、3人1組でわずか3分のワークを行うだけでも、体感を伴って相手の立場を感じ、立場が異なる人とのコミュニケーションの要点を理解することができる。
「上司と部下、看護師と患者など、ワークを行う組織に準じた役を参加者に演じてもらいます。ポイントは精霊役(観察者)を設定すること。3人が、3つの役を順に演じ、それぞれの立場をフィードバックし合う。シンプルなワークですが、演劇が相手の気持ちを理解するのに有効なのは、その人になりきることで“感情”や“身体感覚”を伴いながらハラスメントやトラブルが起きかねない特定のシーンに立ち会えることです。
それも当事者として。若い人が目の悪い高齢者になりきってみる、現実社会では上司に当たる人が若手の部下の立場になってみて、緊張しながら上司役に相談してみる……。男女や年齢、立場を入れ替えて、現実とは異なる役を演じることで、嬉しくなったり、傷ついたり。感情や身体感覚がそこにあることで、相手の気持ちや立場を深く実感することができる。本当の意味で“わかる”体験を得られるわけです」(蓮行さん)
また、観察者(精霊役)が対話について感じたことを聞くことで、現実では得られない俯瞰的な視点も加わる。客観的な視点から得られる気づきも大きい。

DEIは数値目標を達成すればいいというものではなく、たゆまざるアップデートが重要だ。たとえば男性育休取得率100%を達成することは取り組みのひとつの成果であるが、それはゴールではない、と蓮行さんは指摘する。
「知識を増やすことに重きを置いて、頭でっかちな組織が多くなっている。頭で考えるのではなく、本来、無意識に動けるようになること、自然によいコミュニケーションができることが重要ですよね」。
量ではなく、質を。ひとりの声を聞き逃さないことも重要

「京都大学コミュニケーションデザインと DE&I コンソーシアム」は、2023年の発足以来、企業や非営利法人など多様な団体のDEI推進をサポートしてきた。大企業でのデータ分析の折にしばしば聞かれるのが、少数派の声に対する指摘だ。「それは何人の人が言っているのか、コストに見合うのか」と。
「研究には質的研究と量的研究の双方が必要だと考えています。現状に対して違和感を感じる人がたった一人、n=1だとしても、それが0でないならば、そこに目を向ける必要があります。そのひとりに対して、配慮や対応が必要なのであれば、ひょっとしたらそれは80人に対しても役立てることができるのではないか。
効率を追い求めるビジネスの論理で考えると、n=1の事案を掘り下げるのはコストに見合わない。しかし、DEIの観点で考えると、たったひとりの声から見えてくる“困りごと”を無視するわけにはいかない。ひとりに対して、あるいは、数十人に対してのアプローチ、全員を掬い上げる考え方……と、対象となる人数に応じてのアプローチを変える必要もありますが、“だれひとり取り残さない”ことを揺るがせにしては、包摂的な組織から遠ざかってしまう」(蓮行さん)
個別にきめ細かく対応するのが望ましいが、それにはリソースが足りない。ならば対象により手段を変えながら「だれひとり取り残さない」方法を考える、というわけだ。
Mashing Upとのコラボレーションで発信力を強化

対話を大切にし、企業のDEIを推し進め、包摂的な未来を拓く。Mashing Upと共通の理念を持つ同コンソーシアムは、2026年5月よりMashing Upと連携して活動を行う。それぞれの団体に参画する企業が発信の場を持ったり、互いのプログラムへの参加機会を設けるなど、協働により企業内のDEI推進を加速したい考えだ。社会に与えるインパクトも拡大できるだろう。

「『誰ひとり取り残さない』を、建前で終わらせない。というのは人類の悲願であり、これは誰から見ても正しく、明らかです。私たちには大学、研究機関として提供できる知見やアプローチがあり、メディアとコミュニティを持つMashing Upだからできることがある。
DEIの取り組みは短期的に解決できるようなものではありません。しかし、困っている人を助けるために、仲間を増やし短期目標立てて取り組むことが必要な場合もあります。目の前のことを大切にしながら長期的な視点も持ち続ける胆力が必要ではないでしょうか」(蓮行さん)
京都大学とMashing Upのコラボレーションは、本質的な企業内DEIを社会と共有する新たなプラットフォームになるだろう。
(聞き手・編集:Mashing Up遠藤、文:島田ゆかり)
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