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一生に一度は見たい東京美術案内
一生に一度は見たい浮世絵。実物を目にして初めてわかる「プロの技術」(町田市立国際版画美術館)

美術評論家・ノンフィクション作家の野地秩嘉が、社会人の教養として「一生に一度は見たい美術品」をご紹介。今回は町田市立国際版画美術館が所蔵する歌川広重『東海道五拾三次』の「庄野 白雨(しょうの はくう)」と「蒲原 夜之雪(かんばら よるのゆき)」を取り上げます。
「実物の版画」の感動を知っているだろうか?
町田市立国際版画美術館は、JRもしくは小田急線の町田駅から徒歩で約15分の距離にある。晴れた日であればのんびり歩いていくといい散歩になる。ただ、同館から帰りの道は急坂だ。歩くと、かなりのエクササイズになる。雨の日であればこれはもうバスかタクシーを選択せざるを得ない。
同館は市立美術館だ。学芸員は町田市の職員として働いている。開館は1987年。世界でも珍しい版画を専門にした美術館で、収蔵品は約3万3000点。版画を収蔵・公開しているだけではなく、「版画の種類と制作技法」を学べるパネル展示や、さらには本格的な設備を整えた版画工房もあり、版画講座も開催されている。版画を見るだけではなく、興味があれば制作して楽しむこともできる美術館だ。
西洋の版画から日本の浮世絵、さらには現代の版画家までの作品がある。版画が好きな人はもちろんのこと、あまり見たことがない人でも、一度行けば、虜になるとまでは言わないが、必ず感動する美術館だ。
実物の版画には下絵を描いた作家、彫り師、摺り師が遺した手触りがある。絵柄、色といったものに、作家の考えや構成だけではなく、彫り師の技術、摺り師の紙や絵の具への知識と心遣いが、そこにちゃんと感じられる。それは写真には写らない。1枚の版画は工芸品でもあるのだ。
55枚の版画のうちの傑作2枚

同館の浮世絵版画の中でも重要なのが、歌川広重(1797-1858年)の『東海道五拾三次』だ。「次」とは「宿次(しゅくつぎ)」を略したもの。当時、宿場のことを宿次と呼んだからだ。
歌川広重の同作品は江戸の日本橋から京都まで東海道の53の宿次風景を描いたシリーズだ。歌川広重は、江戸時代の浮世絵師で、本名は安藤重右衛門という。かつては本名の安藤と号の広重を合わせて「安藤広重」と呼んでいた。しかし、本名と号を合わせた呼び方はおかしなことだ。そこで、いつしか号だけを合わせた「歌川広重」という呼び方で統一されたのである。
東海道五拾三次はポピュラーな浮世絵だ。子どもでも見たことがあるのはごく最近まで「永谷園のお茶漬け海苔」にカードとして封入されていたからだろう。1952年から2025年まで、中断はあったが半世紀以上、東海道五拾三次の宿場を描いたカードはお茶漬け海苔のおまけのカードだった。
その影響は大きかった。この作品は日本の浮世絵の中では葛飾北斎の『グレートウェイブ(富嶽三十六景 神奈川沖浪裏)』と並んで誰もが見たことのあるそれとなった。
また、広重とその作品の存在は彼自身が亡くなった頃からすでに世界でも知られていた。広重の作品を愛好したのはフランスの印象派の画家たち、そして、ゴッホだ。印象派の画家やゴッホは浮世絵を収集していたのである。なお、ゴッホは広重の『名所江戸百景』のうち、「大橋あたけの夕立」「亀戸梅屋舗」を模写して油絵にしている。よほど好きだったのだろう。
雨の庄野と、雪の蒲原
『東海道五十三次』の中でも専門家が推す作品がふたつある。それが雨を描いた「庄野 白雨」、雪の情景を描いた「蒲原」だ。
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