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ワールドカップでも「転売」被害相次ぐ…購入したチケットが届かないファン続出

母国オランダの代表チームがFIFAワールドカップ2026でプレーする姿を現地で見ること。それはイェルーン・ボースマ(Jeroen Boersma)さんにとって、長年の夢だった。
2025年12月、彼はチケット再販マーケットプレイスの「スタブハブ(StubHub)」で、ダラスで開催される試合のチケット2枚を意気込んで購入した。ところが6カ月後、試合前日の6月13日の朝に目を覚ますと、残念な知らせが届いていた。チケットを届けられないことを告げるメールだった。
スタブハブからのメッセージには小さな「👍」の絵文字が添えてあり、「追加費用なしで代替チケットを手配する」と約束していた。しかし、肝心の代替チケットの「選択肢を確認する」というリンクをクリックしても、何も表示されなかった。このプラットフォームで提示されたのは、返金だけだった。
多くのファンが同じ被害に遭っている
妻はたまらず電話をかけ、事情を説明して交渉を試みた。もっともな話だ。2人はすでにデンバーから飛行機で現地入りしており、スタブハブのサイトには同じ試合のチケットが(価格は高くなっていたが)まだ大量に出品されていたのだから。
しかし、会社側は決して首を縦に振らなかった。仕方なく2人は返金を受け入れ、別のチケット再販マーケットプレイス「ティックピック(TickPick)」で新たにチケットを購入する羽目になった。当初払った金額の2倍以上も出して。スタジアムで彼らの隣に座っていたのは、まったく同じ被害に遭ったアイダホ州出身の男性2人組だった。
「幸い差額を払う余裕はあったが、それでも今後2カ月ほどは財布のひもを相当締めないといけない」と、30歳のボースマさんは言う。
数カ月前に確保したはずのチケットが手元に届かない——多くのワールドカップファンがそうした衝撃的な経験を味わっている。
それこそが、スタブハブ、シートギーク(SeatGeek)、ビビッド・シーツ(Vivid Seats)といった再販マーケットプレイスが抱える暗部と言える。チケットを購入したからといって、実際に手に入る保証はないからだ。買い手は途方に暮れるしかない。「そもそも売り手は本当にチケットを持っていたのか?」「もっと高値で買ってくれる別の客を見つけたのではないか?」と疑心暗鬼になりながら。
「まったく悲惨な話だ。多くの人が移動やホテルに大金を注ぎ込んでいるのに、そのお金が戻ってこないなんて」と、ボースマさんは嘆く。
ネット上は怒りの体験談であふれている
インターネット上には、ボースマさんと似たような目に遭って憤るファンたちの体験談があふれている。筆者もほぼ同じ状況に陥った約10人のファンから直接話を聞いた。
ワシントン在住のロン・レヴィ(Ron Levy)さんは、2025年10月にワールドカップのラウンド16(ノックアウトステージ2回戦)のチケットを買っておけば、リスクを避けられると考えた。
ところが6月12日、予定されている7月6日の試合までまだ数週間もあるというのに、スタブハブから「チケットを届けられない」という通知を受け取った。返金に応じることに気乗りしなかった彼は、何とか解決策を見つけようと「ギリギリまで粘るつもりだ」と筆者に語った。だが、望み薄なことは分かっている。1枚約500ドル(約8万円、1ドル=160円)で購入したチケットの価格はいまや4倍に跳ね上がっているからだ。
「だからあんなに早く買っておいたのに」と、彼はこぼした。
ロジーナ・タグチ(Rozina Taguchi)さんは、いまもプラットフォーム側と交渉を続けている。6月2週目の週末、家族でオクラホマからダラスまで行ったにもかかわらず、スタブハブからチケットが届かなかったからだ。
彼女がこの一件をTikTokに投稿したところ一気に拡散し、スタブハブの担当者と問題解決に向けたやり取りが続いているのだという。彼女によると、同社は当初、返金に加えて20%分のクーポン上乗せを提案し、その後ほかの試合やイベントに関心はないかと尋ねてくるなど、徐々に対応のレベルを引き上げている。
だが、彼女が望んでいるのは、失った労働時間や移動時間、そして精神的苦痛に対する金銭的な補償だ。もっとも、後半戦の「信じられないほど素晴らしい」日本戦チケットが手に入るなら話は別かもしれないが。
それでも、彼女の不安は拭えない。「現時点では、正直言って、スタブハブが新しいチケットを確実に用意してくれるなんてとても信じられない」と彼女は言う。
スタブハブ以外でも問題が起きている
筆者が聞いた苦情の大半はスタブハブに関するものだが、ほかのプラットフォームでも問題は起きている。
マイアミ在住のジャック・パイヤン(Jack Paillant)さんは、スコットランド対ハイチの試合を観戦するためにボストンまで飛んだ。そして、キックオフまでの数時間を、シートギークのチャットサポートとの不毛なやり取りに費やす羽目になった。
彼は5月に3枚のチケットを購入しており、担当者からは「午後9時開始の試合に間に合うよう、当日の正午までにはチケットを届ける」と告げられていた。ところが約束の時間を過ぎても、何の連絡もなく、チケットが届くこともなかった。
彼は現在、メールでシートギークと返金やその他の補償について交渉中だ。彼が望んでいたのはただハイチ代表のプレーを見ることだった。しかし、残る2試合でまたチケット購入に挑む気力は萎えている。
「もう無理かもしれない」と、彼は肩を落とした。
シートギークの広報担当者はメールで、パイヤンさんを失望させたことは、同社が目指す顧客体験の基準に「達していなかった」と認め、本人に謝罪したうえで解決に向けて取り組んでいると回答した。「我々はワールドカップ・チケットの注文を監視し、試合を観戦するファンをサポートするため、引き続き多大なリソースを投じていく」という。
被害の量産を許すカラクリ
購入したはずのチケットが突然消滅するという事態に直面し、より高額なチケットを買い直すか、それともワールドカップ観戦の夢をすっぱり諦めるか——無数のファンがそんな苦渋の選択を迫られている。多くの人は、そもそもそんなことが起こるなんて想像すらしていないため頭を抱えているのだ。「一体なぜこんなことが起きるのか」と。
その答えは、チケット再販マーケットプレイスの特殊な構造の中に隠されている。
スタブハブのようなプラットフォームは、イーベイ(eBay)やフェイスブック・マーケットプレイス(Facebook Marketplace)と同じく、実際にはサイト側がチケットを販売しているのではなく、単に売り手と買い手をつなぐ仲介役に過ぎない。このビジネスモデルは「売り手が申告通りのチケットを確実に引き渡す」という前提で成り立っており、いわば性善説に依存している。
そして、プラットフォーム側は多くの場合、売り手に対してチケットの即時アップロードや、購入証明の提出も義務付けていない。大半のプラットフォームはチケット引き渡し期限を「イベント当日」としている。
個々のトラブルの原因をすべて特定することはできないが、考えられる原因の一つは投機的なチケット転売によるものだ。
これは筆者が昨年「ゴーストチケット(実体のないチケット)」と名づけた手法だ。この手口ではまず、転売業者がまだ入手していないチケットをスタブハブやシートギークに出品し、後から(出品時の価格より安く)チケットを仕入れて買い手に送り届ける。そうやって利ざやを稼ぐことを目論んでいるというわけだ。
オアシスやテイラー・スウィフトの公演でも
この投機的転売がどの程度まん延しているのか正確に把握することは難しい。しかしさまざまな証拠を見る限り、決して珍しい手口ではない。レディオヘッド(Radiohead)やオアシス(Oasis)、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)といった大物アーティストの公演でも同じ問題が発生している。
再販マーケットプレイスでは、一般販売前や、座席が正式に割り当てられる前から、チケットが堂々と出品されることが当たり前のように起こっている。チケットやイベント業界の関係者によれば、代金を支払ったのにチケットが届かない「不履行注文」の大部分が、この投機的転売が原因だという。持ってもいないチケットを届けられるはずがなく、売り手は最終的に取引をキャンセルする。多くの場合、それは土壇場になってからだ。
理由はほかにも考えられなくはないが、いずれにせよ買い手にとって楽観できるものではない。
匿名を条件に取材に応じたニューヨーク近郊のあるチケット転売業者は、会場側が座席の配置を変更した影響で、転売業者がやむを得ず取引をキャンセルするケースもあると言う。
ただ、ワールドカップがすでに開幕している現在の状況を踏まえると、その可能性は低いと彼は見ている。チケット価格の高騰ぶりを見た転売業者が、既存の注文を一方的にキャンセルし、より大きな利益を得るために高値で再出品している可能性もある。彼自身が少し前に売ったチケットもいまでは当時の3〜4倍の値段で取引されているが、「私はそんなあくどい真似はしないから、ちゃんと届けた」と彼は語った。


























