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- 日銀は2028年まで、インフレ率「2%超」が続くと見ている――金融政策と長期金利から鑑みた、中長期的な資産運用のヒント

- 2026年4月の日本銀行金融政策決定会合では、6月に利上げを行うかどうかという短期的な論点より、より重要なメッセージが示された。
- それは、2028年度まで2%超のインフレ率の伸びが続くとの見通しと、それまで中長期的に利上げを継続していくという日銀の姿勢だ。
- 今後の中期的な資産運用を考えるには、市場がいつ金利上昇を景気悪化要因として織り込み始めるのかを見極めていく必要がある。
2026年4月の日本銀行金融政策決定会合では、政策金利の据え置きがほぼ確実視されていた。そのため、市場の最大の注目点は「次の利上げが6月会合で行われるのか」という点に集まっていた。
実際、会合での発表内容を見る限り、日本銀行は「深刻な景気悪化がなければ、物価上振れリスクに応じて利上げを進める」という姿勢を示唆したと評価している。債券市場でも、6月利上げの可能性は高まったとの受け止めが広がった。
しかし、6月に利上げを行うかどうかという短期的な論点より、より重要なメッセージが本会合には含まれている。それは、日本銀行が中長期的に利上げを継続していく姿勢を改めて示したことだ。
そのヒントは、日本銀行が示した物価見通しに表れている。
2028年度まで2%超の伸びが続く
今回、3カ月に1度公表される展望レポートにおいて、中東危機を背景とした原油高を受け、コアCPI(生鮮食品を除く総合)の見通しが上方修正された点は自然な反応と言える。エネルギー価格が上昇すれば、ガソリン代や電気代などを通じて消費者物価は押し上げられやすくなるためである。
エネルギー価格主体の物価上昇であれば、中央銀行はこれを一時的と評価して直ちに利上げを行わずに、ある程度様子見をするとセオリーでは考えられる。なぜなら、利上げによる物価抑制効果が発現するまでには通常一定の時間を要するためだ。効果が出てきたころにエネルギー価格の上昇が収まっている場合、必要以上に金融環境を引き締めてしまうことになりかねない。
しかし、注目すべきは「生鮮食品・エネルギーを除くCPI(以下、コアコアCPI)」の見通しだ。このコアコアCPIも、2028年度まで2%超の伸びが続くとの見通しが示された。
この見通しは何を示唆しているのか。
第一に、中東危機によるインフレ圧力は、エネルギー価格だけではなく、幅広い財やサービス価格へ波及するという点だ。輸送コストや原材料価格の上昇は、食品、外食、物流、製造業など多方面へ影響を及ぼす可能性がある。
第二に、その物価上昇圧力は短期的なものではなく、1~2年度程度にわたって持続する可能性があるということだ。日本では近年、企業がコスト上昇分を販売価格へ転嫁しやすくなっており、賃金上昇も相まって、インフレが定着しやすい環境が徐々に形成されつつある。
つまり、日本銀行は今回の中東危機によるインフレ圧力は、原油高による一部品目に偏ったインフレではないため、一時的な物価上昇とは評価しておらず、数年にわたって物価が押し上げられると想定しているということだ。
物価上昇はさらに強まる可能性あり
コアコアCPIの伸び率のこれまでの実績値に、今回の見通し数値を加えて推移をみてみると、中東危機によって上昇率が加速するとの見通しになっており、その後も高い伸びを推移するとの予想になっていることがわかる。この見通しは、前回1月と比べても相応に上方修正されている。
図表:コアコアCPIの実績値と日銀見通しの推移

しかも、今回の展望レポートでは、日本銀行は現時点で「サプライチェーンは深刻には毀損しない」という前提を置いている。しかし、仮に中東情勢悪化によって物流網や供給網に大きな混乱が生じれば、供給不足によって物価上昇圧力は日銀見通しよりもさらに強まる可能性がある。
こうした示唆から考えると、日本銀行は昨年のトランプ関税ショックよりも、今回の中東危機に対しては物価上振れを念頭に置いて政策対応を行う方針であることが明らかだ。
加えて、今回の会合では「基調的な物価上昇率が2%に近づいているなか、企業の賃金・価格設定行動が積極化していることなどを踏まえると、とくに、物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう、十分に留意する必要がある」との文言も明記された。これは、日銀の利上げ対応がインフレに対して後手に回る、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ(Behind The Curve)」への懸念が高まっており、そうならないように対応していくことが重要という意味だ。
インフレ率2%の堅持が最優先
「ビハインド・ザ・カーブ」とは、中央銀行の利上げがインフレに対して遅れ、結果として物価上昇を抑え込めなくなる状態を意味する。つまり、日本銀行自身が、現在の政策金利が物価情勢に対して十分に抑制的ではない可能性を意識していることを示唆しているのである。
こうした点を総合すると、展望レポートで、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と述べられている通り、日本銀行は今後数年にわたり、低すぎる政策金利を段階的に引き上げていく方向性を示したと考えられる。
もちろん、6月会合で実際に利上げを行うかどうかは別問題だ。中東情勢や世界経済の不透明感が強い中で、短期間での追加利上げには慎重論も根強い。特に、高市政権が利上げに慎重姿勢との見方から早期の利上げは難しいとの見方もある。
しかし、日本銀行の現在のプライオリティは、短期での追加利上げを急ぐことよりも、インフレ率を安定的に2%近傍に維持するための金融政策正常化路線を堅持することに置いていると筆者は見ている。そのため、仮に6月会合での利上げを見送ったとしても、日本銀行は利上げ継続姿勢を強調するメッセージを繰り返し発信する可能性が高い。
日銀の姿勢を示す3つのレポート
この姿勢は、実は4月会合前から示されている。3月下旬に日本銀行から公表された以下3つのレポートは、いずれも日銀の中期的な利上げ継続姿勢の必要性を示唆していると考えられるからだ。それぞれの含意は下記の通り。
① 自然利子率の動向と金融緩和度合いの評価
利上げの「終点(中立金利)」の切り上がり:潜在成長率の改善や安全資産需要の変化などにより、経済に対して緩和的にも引き締め的にも作用しない「自然利子率」が緩やかに上昇。
② 基調的な物価上昇率の概念と捉え方
基調的なインフレ率の目標到達の確度:特殊要因を除いた「基調的な物価上昇率」を複数のアプローチで推計した結果、2%に向けて緩やかに上昇しており、賃金と物価が相互に参照しながら上昇するメカニズムが定着してきていると評価。
③ 需給ギャップ・潜在成長率の見直しと労働需給関連指標の補完的活用について
労働供給制約による賃金・物価上昇圧力の持続性:マクロの需給ギャップだけでなく、バブル期を超える水準で引き締まっている労働需給(人手不足)に着目。労働力不足を設備等で代替しにくいセクターを中心に、需給ギャップが示す以上に賃金や物価に対する上昇圧力がかかりやすくなっている可能性。
これらのレポートを通じて、日本銀行は賃金と物価の相互参照が強まり、基調的なインフレ率の2%定着が近付いており、自然利子率が高まっている可能性があることを客観的データで示している。現在きわめて低い水準にある実質金利を修正し、中長期的に金融緩和の度合いを徐々に縮小(利上げを継続)し、金利を中立領域へと引き上げていくことが適切な環境になりつつあることを示唆していると筆者は受け止めている。
この含意は、中期的な資産運用を考えるうえでも極めて重要だ。
中期的な資産運用に必要なこと
現在の政策金利は0.75%だが、日本銀行のスタンスを見る限り、今後さらに引き上げられていく可能性が高い。実際、債券市場では政策金利の最終到達点、いわゆる「ターミナルレート」が2%を超える可能性も徐々に意識され始めている。
一般的に、金利上昇は株価にとってマイナス要因とされる。金利が上がれば企業の借入コストが増加するほか、将来利益を現在価値に割り引く際の割引率も上昇するため、株式の理論価値が低下しやすくなるからだ。
特に、政策金利が景気を熱しも冷やしもしない「中立金利」の水準へ近づいていけば、株価への逆風は徐々に強まっていく可能性がある。
もっとも、現状の日本では、政策金利が依然としてインフレ率を大きく下回っているため、実質政策金利は大幅なマイナス圏にある。そのため、足元では金利上昇が直ちに株価全体を大きく押し下げる可能性は高くないだろう。
当面は、名目成長率の上昇や企業業績改善期待が株価を支える局面が続く公算だ。しかし、利上げが続き、金利水準が中立金利に近づいてくれば、企業の資金需要や設備投資に徐々にブレーキがかかり始める可能性がある。そうなれば、金利上昇のマイナス面が意識され、株価への下押し圧力が顕在化してくることも考えられる。
その意味で、今後の市場を見るうえでは銀行株と長期金利の関係が重要なヒントになると考えられる。
一般に銀行株は、長期金利上昇による貸出利ざや改善期待から、金利上昇局面では上昇しやすい傾向がある。しかし、さらに金利が上昇し、景気悪化や貸出需要減退、不良債権増加への懸念が強まり始めれば、銀行株も上昇しにくくなる可能性がある。
つまり、長期金利は上昇しているのに銀行株が伸びなくなる局面が訪れた場合、それは市場が金利上昇の恩恵よりも、景気への悪影響を強く意識し始めたサインとなる可能性がある。
今後の中期的な資産運用を考えるうえでは、単に次の利上げがいつ行われるのかだけではなく、日本経済がどの水準までの金利上昇に耐えられるのか、そして市場がいつ金利上昇を景気悪化要因として織り込み始めるのかを丁寧に見極めていく必要があると筆者はみている。
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