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詐欺広告はなぜ無くならないのか。メタの「不都合な真実」に自民党が法整備提言
著名人の顔や名前を無断で使ったSNS上の「なりすまし広告」による投資詐欺被害が、看過できないレベルに達している。
これまで日本政府の対応はプラットフォーマーへの「要請」にとどまり、実効性に乏しかった。しかし2026年5月12日、ついに政治が具体的なアクションを起こした。平将明・前デジタル相を座長とする自民党のプロジェクトチーム(PT)が、プラットフォーム事業者に対して広告主への本人確認や削除などを義務付ける「法整備」を求める提言案をまとめた。

法的拘束力のある規制へと舵を切った背景には、深刻な被害の拡大と、劇的な成果を上げた「台湾の覚悟」があった。
1件あたり1300万円。放置され続けた詐欺被害のひどさ
警察庁のデータによると、SNSを使った投資詐欺の2025年の被害認知件数は9538件、被害額は1274億円に上り、前年から約50%も増加している。
デジタル民主主義の社会実装に取り組む「デジタル民主主義2030」代表の鈴木健氏によれば、1件あたりの平均被害額は約1300万円にも達し、中には1億円、2億円といった高額被害に遭うケースもあるという。
その手口は極めて巧妙だ。SNSの広告をクリックするとLINEグループに誘導され、そこには数十人の「サクラ」が待機している。サクラたちが「100万円が500万円になった」と儲かっているフリをして集団心理を煽り、被害者を信じ込ませる。いざお金を引き出そうとすると「手数料として20%必要」とさらに搾取され、全財産を失うまで気づかない仕組みになっているのだ。
こうした詐欺広告の温床となっているのが、Meta(メタ)が運営するFacebookやInstagram、そしてYouTubeなどの巨大プラットフォームだ。メタ社の内部報告書がリークされたロイターの報道では、なりすましを含む不正広告が全体の10%を占めていると指摘されている。しかし、これまでは政府からの「要請」レベルにとどまっていたため、プラットフォーマー側は事実上、これらの詐欺広告を放置してきた。
台湾が証明した「広告主の本人確認(KYA)」の威力
この状況に一石を投じたのが「台湾の知恵」だ。台湾では、オードリー・タン元デジタル発展部長(大臣)らの主導により、2024年7月に画期的な法律を通し、成りすまし型の広告詐欺被害額を約30分の1にまで激減させることに成功した。
その対策の最大の柱が「広告主の本人確認(KYA:Know Your Advertiser)の義務化」である。
これまで、お金さえ払えば誰でも匿名で広告を出せるプラットフォームが少なくなかった。台湾はこれを法律で禁じ、広告を配信する前に必ず広告主が誰であるかを確認することを義務付けたのだ。
これに加えて台湾では、AIによる生成広告のラベリング義務化や、政府の通報サイトで詐欺判定が出た広告を24時間以内に削除する義務(従わない場合は共同賠償責任)を課した。メタ社などのプラットフォーマーは複数回の罰金を受け、最終的には規制に従わざるを得なくなったという。
広告主の本人確認が徹底されれば、詐欺グループは足がつくことを恐れて容易に広告を出稿できなくなる。入口の段階で詐欺広告をシャットアウトすることで、被害は劇的に減少するのだ。
なぜ「本人確認」は放置されてきたのか? 売上至上主義の罠
では、なぜこれまでプラットフォーマーは、最も効果的とされる「広告主の本人確認」を自主的に導入してこなかったのか。そこには彼らの売上構造に関する「不都合な真実」がある。
鈴木氏は、ロイターの報道を引き合いに出し「本人確認を導入すると、プラットフォームの売上が4.8%下がるということが分かっている」と指摘する。つまり、本人確認のハードルを設けることで、詐欺業者だけでなく一部の正規の広告主の出稿も減少し、結果として自社の利益が損なわれる。メタ社などのプラットフォーマーは、この売上減少を避けるために、意図的に対策を先延ばしにしてきた可能性がある。
さらに、日本国内の担当者には本社の意思決定権がなく、シリコンバレーの本社からすれば「法的な拘束力がない単なる要請」であれば、売上を優先して無視することが最適解となってしまっていた。
自民党の法整備提言が持つ「本当の重要性」
だからこそ、今回自民党PTがまとめた「法整備の提言」は極めて重要な意味を持つ。
平将明座長が「対応を取らないプラットフォーマーは絶対許さない」と強い言葉で語ったように、政府が「法的拘束力」を持つ規制に向けて動き出したことは、巨大IT企業に対する強力なメッセージとなる。
仮に日本で台湾のような超高額な罰金(最大4.6億円)やトラフィック制限の導入が法的に難しかったとしても、政府が「このプラットフォームは本人確認を行っていない」と強くアナウンスし続けることで、正規の優良な広告主がブランド毀損を恐れて離脱していく効果が見込める。プラットフォーマーにとって、政府からの罰金よりも「大口の広告主が離れることによる売上減少」の方がはるかに大きなダメージとなるため、結果として本腰を入れた対策を引き出すことができるからだ。
法整備には一定の時間がかかるものの、自民党はそれまでの間にも、専用通報サイトの設置や実効性のあるガイドラインの策定を進めるとしている。
長らく「無法地帯」として放置されてきたSNSの詐欺広告問題。台湾の知恵を取り入れ、ついに法的拘束力という「武器」を手にしようとしている日本の政治の動きは、デジタル空間の安全を取り戻すための最大のターニングポイントになるはずだ。
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