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スマホ決済のパイオニアが見た、キャッシュレスの“見えない出血”——なぜ今、認証そのものを作り直すのか
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買い物の支払いやサービスの利用において、キャッシュレス決済は大きな利便性をもたらした。だがその一方で、「本人確認」のプロセスは年々複雑になり、利用者も事業者も“認証疲れ”に陥り始めている。
そのなかで、自社の認証基盤そのものを置き換えるという決断を下した企業がある。コンビニ収納代行や電子決済、QR搭乗券などを手掛け、30年近く決済と認証の最前線を走ってきたウェルネットだ。同社が選んだのが、日本通信が開発した次世代のTrust基盤「FPoS(エフポス:FinTech Platform over Security module)」だった。
QR決済の草分けとして日本のキャッシュレス化を支えてきた同社社長・宮澤一洋氏に、なぜいま認証を根本から作り直すのか、FPoSが実現する「本人性」を軸にした新たなTrust基盤のあり方と、その先にある未来像を聞いた。
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キャッシュレス時代に広がる「本人確認」のひずみ
今やキャッシュレス決済は、日常の当たり前になった。その一方で、不正取引は増え続け、利用者、決済事業者、金融機関ともに、深刻な被害を被っている。
ウェルネット社長の宮澤一洋氏は、現在の日本のキャッシュレス決済が抱える課題を次のように指摘する。
「不正利用の原因を突き詰めると、最終的には『なりすまし』に行き着きます。盗まれたIDやパスワードによって、銀行口座やクレジットカードが乗っ取られる。ID・パスワードはダークウェブ(匿名性の高いネット空間)で売買されているため、いつ誰が被害にあってもおかしくない。リアルの世界でのなりすましは、基本的に1対1ですが、ネットの世界では1対多数で同時にやり取りができるため、被害も際限なく広がってしまいます」(宮澤氏)

実際、不正利用被害は歯止めがかからない状況にある。日本クレジット協会などの統計によれば、2024年のクレジットカード不正利用被害額は555億円に達し、過去最高を記録した。
これは、単なる「犯罪被害額」ではない。不正対策のためのシステム投資、本人確認対応、補償など、表に見えないコストも含めれば、社会全体が負担している“見えない出血”は、さらに大きい。
フィッシング報告件数も2024年に171万件を超え、2025年には約245万件に達し、過去最多を記録した。「水面下には、可視化されにくい莫大な負担が積み上がっています」と宮澤氏は警鐘を鳴らす。
「不正利用を防ぐためのセキュリティ投資やシステム更新はもちろん、万が一被害が発生した際の顧客対応、警察への通報、不正利用の調査など、現場に積み上がる負担は膨大です。被害は最終的に保険などで補填され、結果として決済手数料を押し上げている。一部の犯罪者のために、社会全体が莫大なコストを負担させられているのです」(宮澤氏)

なぜ認証は「確認」を増やし続けるのか
もちろん、決済・金融業界全体が不正対策を怠っていたわけではない。クレジットカードのICチップ化、二段階認証、3Dセキュア、パスキーなど、セキュリティ技術は進化を続けてきた。その効果も出ている。2025年のクレジットカード不正利用被害額は510億5000万円と、前年から減少に転じた。3Dセキュアの義務化が一定の効果を発揮したとされる。
だが宮澤氏は、この数字を楽観しない。
「下がったのは、確認をさらに積み増した結果にすぎません。これは小康状態であって、手口はすぐに破られる。実際、証券会社のログインなどは安全のために複雑になりすぎて、使うのをあきらめる人すら出ている。確認を重ねるアプローチの延長線上に、根本解決はないのです」(宮澤氏)
問題は、確認の量ではなく構造にある、と宮澤氏は言う。IDとパスワードは正しく入力されれば、システム上は本人とみなされる。しかし、実際に入力している人が本人かは別の話だ。SMS認証、番号の乗っ取りや登録情報の変更が起きれば、本人確認として成立しない。
「ソフトウェアだけで不正は防げません。かつてクレジットカードには、端末・ICチップ・暗証番号という物理的な仕組みがあった。人と端末をハードウェアのレベルで確実に結びつける——その発想が、オンラインの認証には決定的に欠けていたのです」(宮澤氏)
この「本人性の証明」の脆弱性が露呈し、社会を騒がせたのが2020年の「電子決済サービス不正引き出し事件」だ。悪意のある第三者が、他人の口座情報を使って決済アプリのアカウントを作成し、本人になりすまして銀行口座を連携。複数の銀行口座から預金が流出した。
これらの事件を契機に、各社は認証プロセスを厳格化した。電子上で本人確認を行うeKYC(電子本人確認)も急速に普及し、スマートフォンで本人確認書類や自身の顔写真を撮影・送信する仕組みが広がった。しかしその結果、ユーザーは複雑な認証を何度も求められることになる。安全性を高めようとするほど、利便性が損なわれる。キャッシュレスはジレンマに陥っているのだ。
「日本においては、価値の移動が、信頼性の高い紙幣という現物で行われている限り、『誰が支払うか』という本人性は問われません。ですが、オンライン空間には、紙幣に代わる絶対的な証明が存在しません。本来であれば、『払っている人が本当に本人なのか』を確実に確かめる仕組みが必要だったのに、インターネットの初期にそれを全くやらなかった。本人性を十分に担保できないまま取引が進むという歪みが生まれてしまったのです」(宮澤氏)

ウェルネットがFPoSに見出した可能性
このジレンマを解くのが、日本通信が独自に開発したFPoSだ。マイナンバーカードの電子証明書を用いて公的個人認証を行い、利用者の身元を確認する。その上で、利用者のスマートフォン内に独自の秘密鍵を生成し、安全な領域に保管する。秘密鍵はスマートフォンの外に出ることはなく、利用時にはPINや生体認証を組み合わせて本人性を確かめる。本人情報を認証用データベースに集約せず、公開鍵暗号と電子証明書で本人性を証明するため、ID・パスワードやSMS認証に依存しない。ID・パスワードの漏洩、詐取、SMS乗っ取りなどの従来型のなりすましは、原理的に通用しない仕組みである。
宮澤氏がFPoSの存在を知ったのは、日本通信の福田尚久社長の講演だった。「なりすましが解消されなければ、いつかデジタル決済そのものへの信頼が揺らぐ」と懸念を抱えていた宮澤氏は、話を聴いた瞬間、「これだ」と感じたという。
その危機感は、観念ではない。ウェルネット自身が不正被害の当事者だった。第三者が盗んだID・パスワードで本人になりすまし、同社のスマートフォン決済アプリ『支払秘書』や収納代行サービスを悪用。決済アプリに他人の銀行口座を不正に紐づけ、預金を引き出す手口だった。自社サービスが資金流出の「通り道」にされたことで、ウェルネットは銀行との口座連携をすべて一時停止する苦渋の決断を迫られた。

「それ以来、不正に対する強い懸念を抱えながら事業を続けていました。しかし、FPoSの話を聴いたとき、『これなら安全・安心なTrust基盤ができる』と確信し、喉の奥に刺さっていた魚の骨が取れたような感覚がありました」(宮澤氏)
ウェルネットは2024年11月に日本通信との協業を公表。2025年7月には、電力会社や自治体で数多く採用されている支払秘書にFPoSを組み込み、マイナンバーカードを用いた当人認証機能を実用化した。
「当人認証の時間は短縮され、ID・パスワード入力もSMS認証も不要になりました。かつてeKYCでは、入り口の手続きが複雑で多くの人が途中で脱落していた。FPoSでは、それがほぼなくなった。さらに、口座連携を停止していた銀行の一部とは、FPoS搭載を機に連携を再開できています」(宮澤氏)

「確認」が前提ではなくなる時代、事業者にとっての経済合理性
FPoSがもたらすのは、利用者の安全性だけではない。宮澤氏は、事業者側の経済合理性に踏み込む。
第一に、不正対策・補償コストの圧縮だ。
「なりすましを常に警戒する必要がなくなれば、不正調査も補償も、加盟店審査の重さも軽くなる。悪意ある事業者をふるい分けるための審査コストそのものが、構造的に下がっていきます」(宮澤氏)
第二に、前払い前提からの解放だ。
「本人性が確実なら、前払いを前提にする必要がなくなる。たとえば交通系のプリペイドは、本人が確認できていればポストペイでよい。これは信用社会への転換です」(宮澤氏)
改札も例外ではない。
「今の自動改札機は不正乗車を防ぐためのゲートで、1台に多額のコストがかかる。本人性が担保されれば、料金計算のためのタッチ端末があれば十分。改札コストは劇的に下がります」(宮澤氏)
コンビニ決済で10万円を超える高額チャージに本人認証を組み込むなど、高額決済の安全な解禁も視野に入る。
第三に、属性証明の活用だ。本人性が証明されれば、居住地や所属などの属性データも安全に紐づけられる。
「ウェルネットは北海道のMaaS事業『ぐるっと北海道』で、スキー場の道民割引を導入しようと準備しています。今は窓口で身分証を提示していますが、FPoSの属性証明を使えば、道民であることを自動で判別し、券売機やゲートにタッチするだけで割引が適用される。利用者が意識しなくても、最適な体験が得られる世界です」(宮澤氏)
デファクトへの道筋——「正直者が得をする社会」へ
宮澤氏は、FPoSを単なるセキュリティ基盤ではなく、「本人性」を前提にした新たな社会OSと捉えている。そして、その普及には決済事業者コミュニティ全体の参加が要ると考えている。
「決済の現場を30年見てきた人間として言えるのは、これがデジタル決済に必須の社会基盤になるべきだということです。FPoSは、採用する事業者が増えるほどネット全体の安全性が高まる仕組みです。だからこそ、一社の取り組みに留めず、業界全体で広げていきたい」(宮澤氏)
不正を前提に「確認」を積み上げ続ける社会から、信頼を前提に正直者が安心して参加できる社会へ。本人性と属性が安全に証明されれば、決済も交通も行政サービスも、もっと自然につながっていく。
「本人性を確実に、かつ意識させずに証明する。その基盤が広がった先にあるのは、悪意ある者が排除され、正直者が得をする社会です」(宮澤氏)
こうした未来を実現するため、日本通信は2026年7月、「FPoS Developers Conference 2026」を開催する。技術者だけでなく、金融、交通、行政、地域サービスなど、さまざまな立場の人たちが集い、FPoSによって社会がどう変わるのかを議論する場になるという。宮澤氏も、「FPoS Developers Conference 2026」が、普及に向けた第一歩になれば、と期待を寄せる。

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次回予告:印鑑の国・日本の電子契約を当事者型へと作り変えようとするペーパーロジックが、なぜFPoSを選んだのか




























