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- なぜSUVにスライドドアを付けないのか? 「バカ売れしそうなのに…」と思う人へ
連載
山中将司のカー・インサイト

街を走るクルマの多くがSUVになった。
背の高いボディ、見晴らしのいい運転席、悪路も走れそうな雰囲気。実際には舗装路しか走らなくても、SUVには「どこへでも行けそうだ」という記号がある。セダンやステーションワゴンが担っていたファミリーカーの役割まで、いまではSUVがかなり奪っている。
一方で、日本人が強く支持してきた装備がある。スライドドアだ。
狭い駐車場でも隣のクルマにドアをぶつけにくい。子どもをチャイルドシートに乗せやすい。荷物を抱えたままでも乗り降りしやすい。日本のスーパーハイト軽やミニバンが家族層に支持されている理由のかなり大きな部分は、このスライドドアにある。
ならば、こう考えるのが自然だ。
「SUVがこれだけ流行っているのなら、スライドドア付きのSUVを作ればバカ売れしそうなのに……」
見た目はSUV。使い勝手はミニバン。もしそんなクルマがあれば、かなり便利に見える。ところが現実には、スライドドアを備えた正統派SUVはほとんど存在しない。

近い存在はある。三菱デリカD:5はその代表だ。4WDを備え、最低地上高もあり、アウトドアの雰囲気も濃い。しかも両側スライドドアを持つ。日本で「SUV的なスライドドア車」と言えば、多くの人がまずデリカを思い浮かべるだろう。

海外に目を向ければ、キア・カーニバルも興味深い。韓国スターの移動車としても知られ、VIP送迎車としてのイメージもある。近年のカーニバルは、明らかにSUV風の顔つきと堂々としたスタンスを与えられている。
しかし、この2台は本当の意味での「スライドドアSUV」ではない。デリカD:5は三菱自身がオールラウンドミニバンと位置づけるクルマであり、カーニバルもMPV、つまり多目的ミニバンである。
メーカーは「SUVにスライドドアを付ける」のではなく、「ミニバンをSUVっぽく見せる」方向を選んでいる。なぜなら、そのほうが構造的にも、商品企画としても、はるかに筋がいいからだ。
ここからは、SUVにスライドドアが付かない5つの理由を説明しよう。そして最後に、消えていった「ミニバン以外のスライドドア車たち」の存在も知ってもらいたい。
1.スライドドアがいらない海外事情
まず押さえておきたいのは、スライドドアの価値は世界共通ではないということだ。
日本では、スライドドアは非常に合理的な装備である。理由は単純で、クルマを使う環境が狭いからだ。
住宅街の路地は細く、月極駐車場や商業施設の駐車枠も余裕があるとは言いにくい。隣のクルマとの距離が近い状態で、子どもを後席に乗せる。雨の日に傘を差しながら荷物を積む。高齢の親を乗せる。こうした場面で起こる「ドアパンチ」の恐怖を考えれば、ヒンジドアよりスライドドアのほうが明らかに使いやすい。
しかし海外では、この価値が日本ほど強く出ない。特に、土地を持て余したアメリカやカナダ、オーストラリアは言うまでもない。
もちろん欧州にも狭い道はある。都市部の駐車場も広いとは限らない。筆者が住んでいるハンガリーでも、古い市街地に入れば道は狭い。しかし日常的な駐車環境で見ると、日本より余裕がある場面は多い。自宅前や集合住宅の駐車スペースは比較的ゆとりがあり、郊外型店舗の駐車場も日本の都市部ほど窮屈ではない。そうした環境では、ユーザーの多くはヒンジドアで特に困らない。
そして何より、スライドドアは自動車工学上、多くのデメリットも抱えている。
2.スライドドアを付けると重く、高く、複雑になる

スライドドアは、ただ横に滑るドアではない。レール、ローラー、ラッチ(不用意に開かないようにするためにロックする部品)、モーター、センサー、制御ユニット、挟み込み防止機構が組み合わさっている。電動式になれば、一つのドアが小さな機械システムになる。ヒンジで支える普通のドアとは、構造の複雑さがまったく違う。
そのため車の重量が増え、部品点数も増えるため原価も上がってしまう。
SUVはただでさえ重い。背が高く、タイヤも大きく、四輪駆動を備えるモデルも多い。そこにスライドドアの機構を加えれば、さらに重量が増す。燃費や電費に不利になり、走りも鈍くなる。価格も上がる。
しかも、そのコストをユーザーがどこまで評価してくれるかは不透明だ。
SUVが欲しい人は、見た目や走り、ブランドイメージを重視する。そこに重くて高いスライドドアを入れても、商品としての焦点がぼやけてしまう。
3.大きな開口部は、ボディを弱くする

スライドドアのもう一つの問題は、ボディの両側面に大きな開口部が空いてしまうことだ。
クルマのボディは箱である。箱は穴が大きくなるほど弱くなる。とくに側面は、側面衝突への対応も必要になる。大きな開口部を持ちながら安全性と剛性を確保するには、ピラーやフロア、サイドシルに補強が必要になる。
ミニバンは最初からその前提で設計されている。大きな開口部、低い床、多人数乗車。これらを成立させるために、車体全体を組み立てている。
しかしSUVにはSUVとしての骨格がある。最低地上高を稼ぎ、タイヤを大きく見せ、ボディに厚みを持たせる。そこに大開口のスライドドアを入れると、設計上の優先順位がぶつかる。
剛性を確保するために補強すれば重くなる。軽くしようとすればコストが上がる。開口部を大きくすれば、側面衝突への対応も難しくなり、「あちらを立てればこちらが立たず」といった状況に陥る。
4.スライドドアは、音と建て付けにも不利が出やすい

ヒンジドアは、片側をヒンジで車体に固定し、反対側をラッチで引き込んで閉める。構造が単純で、ドアを車体に押し付けやすい。
一方、スライドドアはレールとローラーで動き、閉まった後は複数のラッチとゴム製のシールで車体に密着させる。言い換えれば、ヒンジドアほど単純に「がっちり固定される」構造ではない。
新車のうちは問題ない。だが年数が経つと、ローラーの摩耗、レールの汚れ、ゴムの硬化、ボディのわずかな歪みが重なり、ガタつきが出やすくなる。筆者が以前所有していたN-BOXやオデッセイでも、数年後には走行中のガタゴト音が気になるようになった。
便利さの裏側に、こうした建て付け管理の難しさがある。セダンから派生した現代のSUV、とくに上質感や静粛性を売るモデルでは、この弱点は無視できない。
5.車内が狭くなり、デザイン的にも合いづらい
スライドドアには、もう一つ大きな問題がある。デザインと室内空間だ。
スライドドアは、ボディ側面にレールが必要になる。ミニバンなら、それはあまり問題にならない。そもそも箱型の実用車であり、レールがあってもキャラクターとして受け入れられる。
しかしSUVでは違う。SUVはデザイン上、力強さを表現する必要がある。ボディ側面の張り、フェンダーの力強さ、ショルダーラインの通し方が重要になる。そこにレールが横切ると、造形の流れが分断される。高級SUVやスポーティなSUVでは、これはかなり大きなマイナスだ。
しかも問題は外観だけではない。スライドドアのレールや駆動機構は、室内側にも影響する。
スライドドアを成立させるには、ドアを支えるレールやローラー、場合によっては電動開閉用のモーターやワイヤー類が必要になるのは先ほど書いた通りだ。だが、それだけではない。これらを収める空間も必要になるのだ。ボディの外側だけでは完結しない。天井まわり、ピラーまわり、床まわりの構造にも入り込む。
その結果、室内側に張り出しが出たり、内張りが厚くなったりする。ミニバンのように四角いボディで室内高に余裕があるクルマなら吸収しやすい。しかしSUVは、ミニバンほど広さに余裕がない。結果として、室内は狭く、そして乗り込みづらくなる。つまりスライドドアは、外から見ても中から見ても、設計上の自由度を奪ってしまう。

























