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Business Insider Japan

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車の物理スイッチがようやく復活してきている理由。スイッチなら10秒の操作、モニターでは44.9秒
山中将司 · 2026-05-18 · via Business Insider Japan
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連載

山中将司のカー・インサイト

矢印
物理スイッチの少ないテスラ・モデル3のインテリア
物理スイッチの少ないテスラ・モデル3のインテリア
テスラ公式メディアサイト

2017年にデビューしたテスラ・モデル3。当時、運転席に乗り込んだ多くの人が同じ感想を抱いたはずだ。

「あれ、メーターがない! スイッチもない。あるのは、ど真ん中の15インチの板きれ一枚だけ……」

エアコンの温度変更も、ワイパーの速度変更も、グローブボックスを開ける動作さえ、すべてこの画面の中に吸い込まれていた。

メルセデスベンツ公式メディアサイト
メルセデスベンツ公式メディアサイト

自動車業界に衝撃を与えたこの光景は、その後の自動車業界の指針となった。フォルクスワーゲンは2019年のゴルフ8でライトもエアコンもタッチ式スライダーに置き換え、メルセデス・ベンツは2021年、左右のAピラー(フロントガラスの両端の柱)の間を一枚の曲面ガラスで覆う「MBUXハイパースクリーン」を発表。BMWも新世代iDriveで、それまで運転席まわりに散在していたスイッチ類を、ほぼ半分にまで削ぎ落とした。

メーカーが掲げた大義名分は、おおむね次の三つに集約される。すなわち、整理された内装の「プレミアム感」、スマホのように車を買った後でも機能を追加できる「OTA(オーバー・ジ・エア=無線によるアップデート)」、そして個人の好みを学習する「パーソナライゼーション」である。どれももっともらしい。

しかし、ここで一つ、メーカーがあまり大きな声で言わない理由がある。フェラーリのCEOベネデット・ヴィーニャがTHE DRIVEのインタビューにて語ったところによると、タッチ操作の部品は物理ボタンに比べて製造コストが約50%安いのだという。フィナンシャル・タイムズ紙も、ボタンを減らせば部品点数も配線も認証手続きも減ると指摘している。つまり、表向きの「デザイン」「体験価値」の裏側には、極めて実利的な原価低減という動機が貼り付いていた、と見るのがもっともだろう。

「10秒」と「44.9秒」――数字が突きつけた現実

潮目を変えた象徴的なテストがある。スウェーデンの自動車専門誌『Vi Bilägare(ヴィ・ビレガレ)』が2022年に実施した比較実験だ。

実験の内容は四つのタスクの実行タイムを測るというシンプルなものだった。

  1. シートヒーターを作動させ、温度を2度上げてから、デフロスター(窓の曇り取り)を作動させる
  2. ラジオの電源を入れ、特定のチャンネル(スウェーデンのプログラム1)に合わせる
  3. トリップメーターをリセットする
  4. インストルメントパネルの照明を最低レベルまで下げ、中央のディスプレイをオフにする

この四つのタスクを、走行中にどれだけ速くこなせるか測定したのである。

衝撃的な結果を要したMG
衝撃的な結果を要したMG
MG公式メディアサイト
MG公式メディアサイト
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結果は衝撃的だった。物理ボタンが整然と並んだ2005年式ボルボV70は10.0秒で完了したのに対し、最新のMG マーベルRは44.9秒を要した。BMW iXは30.4秒、フォルクスワーゲンID.3は25.7秒、テスラ・モデル3は23.5秒。17年前の旧車に、最先端のEV群がそろって2〜4倍の時間を要したのである。

ユーザーの声も明確だ。英国のGBNの報道では、物理ボタンを好むと答えた回答者は約9割、タッチ偏重の車は購入を避けたいという回答も6割に達した。不満の中身もほぼ定型化している。エアコン、デフロスター、音量、シートヒーター、ADAS(先進運転支援システム)の警報オンオフといった「頻繁に使う機能」が、メニューの奥深くに埋もれていること。手元を見ずに操作する「ブラインドタッチ」ができないこと。夜間や悪路で入力精度が落ちること。冬の手袋では反応しないことだった。

それらの批判は決して「昔ながらのボタンが好き」という懐古趣味ではない。本質は認知負荷と視線配分にある。運転中、ドライバーの目と注意は道路の前方に向いていなければならない。その前提を、画面操作はあっさり破壊してしまう。

さらに看過できないのが、ソフトウェア集中による故障時のリスクである。2026年にはメルセデス・ベンツで、インフォテインメント制御ユニットの不具合が発生。画面表示が消え、リセット中、ドライバーは速度計や警告灯など、走行関連の重要情報の一部を見ることができなくなり、アメリカでリコールを実施した。表示も操作も警告も一枚のソフトウェア基盤に集約するほど、たった一つの不具合が広範な機能に波及しやすくなるという構造的脆弱性も避けて通れない論点となっている。

Euro NCAPが物理ボタンを復活させる

そして2026年、ついにユーザーや評論家の不満が「個人の感想」の域を出た。衝突安全性や環境負荷の評価で知られるEuro NCAP(欧州新車アセスメントプログラム)が特定の重要機能について「Direct Physical Input(直接的な物理入力)」を備えることを要求したのだ。

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