- TECH INSIDER
- 深掘り
- NECの「真に国や業務で使えるAI」の全容。ChatGPTやClaudeにはできない「特化」の勝ち筋【日本企業のLLM】

海外大手が主導するAI開発競争の中で、日本企業はLLM(大規模言語モデル)とどう向き合おうとしているのか。そんな視点で追う「日本企業のLLM」取材、富士通に続く第2弾はNECだ。
NECは自社の演算インフラを使い、独自のAIを開発している。そのAIは、NECがビジネスとして顧客に提供し、業務改善に活かすことを目指して作られたものだ。
コストをかけたAI開発競争が世界中で起きている中、日本企業が戦うのは難しい部分があるが、それでもNECは独自開発を選んだ。それはどういうことなのだろうか。
ポイントは「業務特化AI」にある。ただその先にあるのは、開発したAIの価値をいかに顧客に届けるか、という考え方でもあった。
自社を最初の導入先として使い勝手を磨く「クライアント・ゼロ」や、不適切な出力を抑える「ガードレール」の考え方からも、NECが目指す企業向けAIの姿が見えてきた。
性能で劣ってもAIを自社で作る理由

日本企業がAIを独自開発する、という話になると、必ず次のような質問が出てくる。
「アメリカや中国であれだけお金をかけたものが作られているのに、なぜやるのか。太刀打ちできないのではないか」
今回の取材では、まずこの話を各社に聞いている。もちろん、NECにもこの質問を投げかけている。

この問いに対し、NEC・AIテクノロジーサービス事業部門 AIビジネス・ストラテジー統括部 シニアエバンジェリストの野口圭氏は、「自分たちでの独自開発は必要だと思っている」と明確に答えた上で、次のようにも話す。
「汎用的な会話、汎用的な用途で海外大手のフロンティアモデルに対し、競合するつもりはない。そこで勝つことも目指していない」(野口氏)
4月24日追記:4月23日、NECはアンソロピック(Anthropic)と、エンタープライズAI分野を中心に戦略的協業を開始すると発表した。この点も、単純に「大手モデルか独自モデルか」という判断をするのではなく、用途によって使い分ける戦略であることを示している。
ではなにを目指すのか?
NECの目的は、AI自体の提供ではない。AIを使った業務ソリューションの提供だ。すなわちそこでAIに求めるものも、「業務知識」「特化データのハンドリング」「安全安心な環境の提供」ということになる。

AIテクノロジーサービス事業部門・AIプラットフォームサービス統括部 統括部長の吉川彰一氏は、価値をまた別の切り口でこう説明する。
「汎用的なフロンティアモデル※は、ある意味で百科事典のようなものだ。海外大手が開発するAIが100点だとすると、我々のものは100点には至らない。
だが90点だとしても、お客様の業務で使う時に大差ない場合も多い。本当に100点を取ろうと思うと莫大な資金が必要だが、90点ならそこまでではない。
その中でお客様の課題解決を考え、特化することを考えると、フロンティアモデルは『特化』が難しい。だから我々自身で作る必要性がある」(吉川氏)
※フロンティアモデルとは:最先端・最高性能を競うAIモデルのこと。

汎用的な業務は別として、個々の企業に最適化した業務改善を行う場合、そこでは「信頼性と品質の担保」が必要になる。
AIはその特性上、構造がブラックボックスになりやすい。秘匿性・信頼性が重要なニーズを満たす場合、自己学習などの手段を使った品質担保が必要になってくる。
また、データの管理と秘匿性の観点からクラウド環境を利用できない顧客に対しては、社内に設備を置くオンプレミス環境での提供が求められることになる。
その場合には、賢いが巨大な演算リソースを必要とするAIモデルは利用できず、コンパクトな設備でも、高精度かつコストパフォーマンスに優れた運用のできるAIモデルが必要になってくる。
それをフロンティアモデルとそのカスタマイズで実現することも不可能ではないし、大手AIプラットフォーマーはそれをアピールしてくる。しかし、NECのような事業者としては、自ら開発し、中身もはっきりしているものを使って提供したほうが有利になる部分が増えるわけだ。
なお、NECは先日、国も支援を検討する「国産AIの開発支援事業」に参加すると報じられた。ソフトバンクが新会社を作り、NECやホンダ、ソニーグループなどが参加する、と言われている。
新会社で作るのはいわゆるフロンティアモデルに近いものだが、それでも、OpenAIやアンソロピック(Anthropic)に及ばない可能性が高い。その中でも、「では国内で国や企業が必要とするAIとはなにか」という観点での検討が重要になるだろう。
クライアント・ゼロとしての学びを顧客に提供

AIを作るのはいいとして、重要なのは「どの業務にどう展開すると有用なのか」という説得力の問題だ。
文書の要約ができるのはわかっても、では具体的にどの業務プロセスでどう実践するとプラスなのかは、意外とわかりにくい。
そこでNECが徹底しているのは、自らを「クライアント・ゼロ」とすることだ。
クライアント・ゼロとは、自社を自社技術の初期クライアントと見立て、積極活用して問題を洗い出しつつ、価値を磨き上げる手法を指す。過去からソフト開発では存在する考え方だが、AIではより重要なものになる。
野口氏は「あらゆる我々の業務プロセスにAIを使っていくことは、NECとしても当然、トップダウンで行っていること。まず経営層から使い始めている」と、状況を説明する。
あわせて読みたい
Special Feature





























