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「印鑑の国」日本の電子契約が、ようやく本物になる——日本通信×ペーパーロジックが挑む、“本人の意思”のデジタル証明
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コロナ禍を一つの契機に、すっかりビジネスシーンに定着した「電子契約」。しかし、現在世の中に広く普及している電子契約の多くは、利便性を追求するあまり、「本人性の確認」という重要な部分に大きな課題を残していることをご存じだろうか。
その課題に対し、日本通信が開発した次世代Trust基盤「FPoS(エフポス:FinTech Platform over Security module)」を通して、新たな電子契約サービスを生み出そうとしているのがペーパーロジック社だ。同社は、「あらゆるビジネスシーンの紙とハンコをなくす」ことを理念に掲げ、企業の文書DXを促進。電子契約はじめ、すべてのビジネス文書における発行・受領・保管をすべてデジタル化するクラウドソリューションを手がけてきた。
果たして電子契約が抱える構造的な課題とは何か。なぜFPoSによって、その課題を乗り越えられるのか。ペーパーロジック代表取締役社長であり、公認会計士としても長年「契約上の問題」と向き合ってきた横山公一氏と、技術開発を統括するCTO兼CIOの本田剛久氏に話を聞いた。
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なぜ日本の契約から「印鑑」はなくならないのか
日本では契約の本人確認を、長きにわたり「実印」と「印鑑証明書」によって行ってきた。ペーパーロジック代表取締役社長の横山氏は、日本の印鑑登録制度を「世界的に見ても完成度の高いアナログのセキュリティシステム」と評価する。

「印鑑登録制度のベースができたのは明治6年(1873年)。それ以来150年以上にわたって、日本社会に組み込まれています。アメリカでは、契約の真正性を担保するために公証人がサインや身分証明書を目視で確認し、認証していますが、実務的にかなりの手間です。
それに対して日本では、市区町村に登録された印影と、契約書に押された印影を照合することで、その印鑑が本人のものであると確認・認証しています。よくできた仕組みだからこそ、社会インフラとして長く成立しているのです」(横山氏)
この紙と印鑑による契約が、いま電子契約へと置き換わりつつある。2015年の電子帳簿保存法の改正などを契機に、文書のデジタル保存が増加。その後、2020年のコロナ禍で出社や対面手続きが制限されたこともあり、政府も行政手続における書面規制・押印規制・対面規制の見直しを推し進め、電子契約の導入に弾みがついた。
電子契約には大きく分けて「当事者型」と「事業者署名型(立会人型)」の2つの方式があり、現在、ビジネスパーソンが利用している契約の大半は「事業者署名型」だ。正確な表現ではないが、あえてわかりやすく当事者型は実印による契約、事業者署名型は認印による契約、と考えるとイメージしやすいだろう(※)。
「当事者型は、契約する当事者が印鑑証明書や登記簿謄本といった本人確認書類をそろえ、認証局に申請して電子証明書を取得する必要があります。さらに、その利用にはパソコンやカードリーダーを準備しなくてはならないケースもあり、非常に時間と手間、コストがかかります。そのため、一般には普及せず、国の入札など特定の領域でしか使われていません。
一方の事業者署名型は、サービス提供事業者の電子証明書を用いて行い、契約する当事者の本人確認はメールアドレス認証などで担保するので、手軽に契約でき、コロナ禍で一気に広がりました。ただ、メールアドレス認証で本人確認を行うということは、本人性の担保をユーザー任せにしているということです。結果として、本当に重要な書類には電子契約を用いにくく、一部の書類に利用範囲が限られてしまっています」(横山氏)
実際、金額の大きな取引や事業譲渡、M&Aといった重要な契約では、現在でも実印と印鑑証明書を求められることが多い。横山氏によれば、大きな金額が動く不動産や建設の業界では、9割近くの契約でいまだに実印と印鑑証明書が用いられているとの調査結果もあるという。
※コロナ禍で政府から出されたガイドラインでは、事業者署名型も実印相当と認めているが、ユーザー側での本人確認作業を含め、種々の要件充足が必要であり、法的効力は当事者型よりも劣ると言わざるをえない。
AI・ディープフェイク時代に高まる偽造リスク

契約のデジタル化が進んでいるように見えて、依然として日本ではアナログなやり方に頼っているわけだ。しかし、AIやディープフェイク技術の急速な進化により、これまでになく偽造リスクは高まっている。
「高精度な画像生成AIや3Dプリンターを使えば、既存の印影をそっくりに複製することも、紙の印鑑証明書そのものを偽造することも難しくありません。これまで日本のビジネスは、印鑑証明書や印影を目視するといった属人的な確認に依存してきました。しかし、ディープフェイクで社長の顔や声まで完璧に偽造できるいま、人間の五感では簡単に騙されてしまいます」(横山氏)
その点で、当事者型の電子契約は、「公開鍵暗号方式」という安全性の高い暗号技術を用いており、偽造や改ざんがなされるリスクは限りなく低い。ただ、当事者型には前述した通り、時間と手間、コストがかかるという課題があった。
ところが、この課題を一挙に解決する技術が現れた。日本通信が開発した「FPoS(エフポス:Finech Platform over Security module)」だ。ペーパーロジックは日本通信と協業し、FPoSを組み込んだ新たな当事者型電子契約の実現を目指している。
FPoSの仕組みは「コロンブスの卵」
FPoSとは、マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)をトラストアンカー(デジタル上の信頼性を担保する起点)として、スマートフォンに搭載された「ハードウェアで守られた秘密鍵」を組み合わせることで実現したTrust(信頼)基盤だ。これを用いれば、スマートフォン一つで簡単に「本人性」と「真正性」を証明することができる。
ペーパーロジックCTOの本田氏は、FPoSは「電子契約業界にパラダイムシフトを起こす」ものだと語る。

「当事者型が抱えている弱点は、電子証明書とともに使われる秘密鍵(電子契約においては実印のような役割を果たす)の保管場所です。これまでは、ICカードやUSBトークンに格納する物理デバイス方式、サービス事業者のクラウドに預けるクラウド保管方式のどちらかで管理していました。
前者は安全ですが、パソコンや専用の読み取り機が必要で手間がかかる。後者は手軽な一方、自分の大切な実印を他社の金庫に預けっぱなしにしているような状態で、有識者の間でも議論となりました。
そこに登場したのがFPoSです。誰もが日常的に持ち歩くスマートフォンのセキュア領域に秘密鍵を格納することで、スマートフォンがなければ絶対に署名できない状況をつくり出します。この発想は、まさに“コロンブスの卵”です」(本田氏)
FPoSの技術的な核は、「厳格な本人確認」「電子証明書の発行」「秘密鍵の生成と保管」、そして「電子署名」という一連のプロセスをシームレスにつなげ、利用者のスマートフォン上で完結するようにした設計にある。これにより、なりすましや偽造が入り込む余地がなくなり、セキュリティリスクは限りなくゼロに近づく。
本田氏はこの技術を、「『安全性を高めると不便になる』というデジタル認証における社会実装の壁を壊す」ものとして高く評価し、横山氏はそのことが「企業側にも多大なメリットをもたらす」と語る。
「『同意ボタンを押す』『スマートフォンの生体認証を利用する』といった、これまで通りのUXのまま、システムの裏側では、本人が同意したという法的証拠力の極めて高い証跡が残る。これは、サービスを提供する企業からすれば、顧客の利便性を一切下げずに、後々のトラブルや損害賠償リスクを防ぐことにつながります。
ここまで簡単すぎると、これまで物理的なハンコを金庫に入れ、厳重に管理していた人は『スマホで簡単に署名しちゃって大丈夫?』と不安になるかもしれません。しかし、物理的なハンコは実印でさえ、本当のところは誰が押したかわからず、あくまで“推定効”が働くだけです。
FPoSによる電子署名の優れたところは、本人の意思表示が確実にトレースできる点にあります。後からでも署名されたデータから、署名した人の判断、意思表示を明確にトレースできるのです」(横山氏)
すべての電子契約は「当事者型」になり、「印鑑」不要になる

ペーパーロジックは、サービスローンチに向けて、FPoSを組み込んだ当事者型電子契約サービスの実装を進めている。具体的に導入が進む業種業態については、こう予測している。
「一つは、2027年4月に改正が予定されている犯罪収益移転防止法の対象となる業界。厳格な本人確認が法律で義務づけられるようになり、金融機関やファイナンスリース業、不動産業、弁護士や税理士といった士業など、40以上の業種が該当しています。
もう一つは、人事・労務の雇用契約やCtoCの契約、シェアリングエコノミーの契約など、相手の顔が見えないリモート環境での同意が求められる領域です。これまでは事業者署名型を使っていましたが、手軽に当事者型を使えるなら乗り替えが起こると考えられます」(本田氏)
横山氏は、FPoSによるコスト削減効果にも言及する。
「ある金融機関の方と話をしたところ、紙ベースでの金銭消費貸借契約には、相手からさまざまな本人確認書類を提出してもらい、担当者、課長、部長の承認、そして法務部門による反社チェックなどが必要で、それらの手続きを社内の人件費に換算すると、1契約あたり10万円以上ものコストがかかっているそうです。
FPoSを導入すれば、この見えない膨大なコストを一気に削減しつつ、これまで以上の安心感を得て契約を結ぶことができます」(横山氏)
また、FPoSには「属性」を証明する機能も加わる予定だが、それにより法人取引の可能性はさらに広がる。
「個人としての本人確認だけでなく、『その人がどの会社に所属しているか』『その会社でどんな役職や権限を持っているか』『資格を保有しているか』といった属性をFPoSにひも付ければ、より企業間の契約で使いやすくなります。たとえば、ある担当者が会社を代表して契約を承認した場合、その人物が本当にその会社の権限者なのかをデジタル上で確認することも可能です」(横山氏)
これは契約だけでなく、企業の内部統制やガバナンスの観点でも有益だ。アナログ時代には、「上司が離席している間に、部下が勝手に上司の印鑑を持ち出して押してしまう」といった不正が可能だった。また、パスワードの使い回しによるなりすましも後を絶たない。しかし、FPoSの仕組みのもとでは、これらは不可能になる。
電子契約を根本から変える可能性を持つFPoS。本田氏は、普及した未来をこう予測する。
「これまでは、契約の重要度やリスクに応じて、手軽な事業者署名型と厳格な当事者型を正しく使い分ける必要がありました。しかし、FPoSという技術の実装が現実のものとなった今、その前提自体が根本から覆るはずです。
FPoSは簡単な操作で、一瞬で、しかも圧倒的な低コストで当事者型の証明ができる。今後は使い分けが不要になり、すべての電子契約で当事者型が使われるようになるでしょう。そのことは、ついに日本のハンコ文化が終わることにもつながります」(本田氏)
そして、その先には電子契約にとどまらない領域での活用も視野に入る。2026年7月に開催される「FPoS Developers Conference 2026」は、業種業態を超えて社会全体にFPoSの輪を広げる場だ。社会実装に向けた共創を見据え、さまざまな企業や開発者が集まり、本人性と真正性を前提にした新しいサービスが生まれるだろう。
「この前、妻とショッピングに行ったとき、いろいろな情報の登録を求められて、キャッシュバックの手続きだけで30分もかかりました。そうした手続きは、お年寄りにとってはかなり難しいですよね。
FPoSが優れているのは、安全性だけではありません。ITに不慣れな人でも『これ一つ』で安心して手続きできるという“簡単さ”と“安全性”を両立させたことです。それこそが本当に優しい社会インフラだと思っています。
でも、それは一社だけで成立する話じゃない。電子契約、決済、行政、医療。あらゆる領域の企業や開発者が共通の基盤に参加することで、初めて社会全体に広がっていく。150年続いた印鑑登録制度がそうだったように、すべての人の日常に溶け込んでこそ本物です。このカンファレンスが、そうした優しいインフラをみんなで形にしていく第一歩となることを期待しています」(横山氏)
「FPoS=社会OS」という基盤の上で、多様なサービスが安心・安全のもとで動いていくことによって、ユーザーの体験と産業構造そのものが変わっていく。そんな未来が今、始まろうとしている。

「FPoS Developers Conference 2026」の詳細はこちら
次回予告:「トラストは、誰が担保するのか」——技術と制度をつなぐ中立機関・JIPDECの常務理事が、FPoSに見た“社会基盤化”の可能性を語る。






















