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日清製粉グループ ジェンダーギャップ解消トークイベントレポート:及川美紀さんと考える「幸せな組織」とは

日本のジェンダーギャップ指数が、先進国として最低レベルであることは誰もが知るところ。こんなデータを持ち出すまでもなく、日本の企業の多くもこの現実を組織における課題と捉え、解消に取り組んでいる。
日本の食のインフラを担う日清製粉グループも2025年6~7月、ジェンダーギャップや働きがいに関する意識調査を行った。調査の主たる目的は「ダイバーシティ(多様性)の概念に照らし、従業員一人ひとりの多様な考えをもとに、各々がより働きやすいと思える職場・風土づくりを推進する」というものだ。

調査から見えてきた課題を整理すると、大きく二つの要因が浮き彫りになった。無意識に性別役割分担を期待する「アンコンシャス・バイアス」の存在と、長時間労働前提の働き方だ。
性別役割分担に関する固定概念に起因するアンコンシャス・バイアスは、男性の負荷を当然視し、女性の職場でのチャレンジの機会を奪うことにつながりかねない。また、長時間労働前提の働き方は、私生活との両立を困難とし、キャリア選択への制約にもなり得る。
この結果を受けるかたちで、同社は2026年5月、ジェンダーギャップ解消とこれからの働き方を考えるトークイベントを開催。登壇したのは、元ポーラ代表取締役社長で一般社団法人Mashing Up理事の及川美紀さんだ。
アンコンシャス・バイアスに気づき、「機会」を平等に

最初に紹介されたのが、動画『#LikeAGirl Gender Bias Against Girls』(女の子みたいに。少女たちに対するジェンダーバイアス)だ。海外の生理用品メーカーのキャンペーンのために制作されたもので「女の子らしく」という言葉がどのようなイメージを与えるのかが、よく理解できる。動画内に登場する女の子たちやそれ以外の人が「女の子らしさ」を動作で示し、なぜそう思うのかを語るという内容だ。普段誰もがなんとなく感じていながら、言葉にはしないアンコンシャス・バイアスを理解するのにうってつけの教材である。
参加者と共に動画を視聴した後、及川さんが触れたのがバイアスの一因としての日本の女性リーダーの比率だ。小学校の女性の校長は28.4%だが、中学校、高校となるにつれ、その比率は下がり、市町村区長ではわずか4%にとどまる。
「たとえば『組織のトップ』という言葉を聞いたときに、女性のイメージが浮かばないのは、これまでの社会のリーダー像が男性に偏っているから。『リーダー=男性』、というアンコンシャス・バイアスが生まれやすい状況になっているからです」(及川さん)
アンコンシャス・バイアスに関しては、及川さん自身もはっとした体験があったという。
「私自身、インタビューを受けたときに、つい『時短勤務のお母さん』と言ってしまったことがあります。時短だからってお母さんだとは限らないですよね。無意識のうちに『そういうものだよね』という思い込みが私にもあった。アンコンシャス・バイアスは、誰にもあるものなのです」
長時間労働が偉いという、価値観アップデートが必要

そもそも、男性/女性の二項対立ではなく、一人ひとりを見ていくこと、性差より個人差に重きを置くのが、ダイバーシティの原点だ。学力調査を見ても日本の男女の差は見られない。むしろ職場でのジェンダーギャップが生まれる理由は、能力の違いではなく成長する機会の差や、性別役割分業バイアスに要因がある。
「長く働ける人が評価される」「管理職は私生活を犠牲にするもの」という古い価値観は、若い世代の昇進意欲に影響するだろう。また多くの女性が「管理職に就きたくない」という要因もここにある。
働き方改革が進み、長時間労働が是とされない社会へ移行する中、注目すべきは「労働生産性」だ。日本生産性本部の2025年報告書によると、主要先進7カ国(G7)の中で日本の就業者1人当たりの労働生産性順位は最下位だ。

では、どうすれば生産性を上げられるのか。その背景には「女性の家事労働の負担」がある。 日本の家事負担は女性に大きく偏っており、働く女性が時短勤務を選択せざるを得ないケースも少なくない。
労働生産性を上げるためには、男性のみが長時間働くという片輪走行はやめ、女性が能力をしっかり発揮できる土壌をつくり、男女問わず一人ひとりの能力開発に向き合う必要がある。
幸せな組織、働きがいのある組織とは
パーソル総合研究所の調査によると、日本の「働く幸せ実感」は調査国の中で最下位だ。一方で「不幸せである」という人も少ないという特徴が見えた。
「働くことは幸せではないけれど、まあ、こんなものか、と思いながら働いている人が多いということだと思います。これは、ルール重視で寛容性が低く、職場における相互尊重が低いと分析されています。同質性が高く、異なる人が排除されやすいカルチャーは、日本の企業にまだまだ存在しています。異なる他者と積極的に関わろうとしない傾向が強いと、どうしても風通しは悪くなりますよね」(及川さん)
この状況を放置すると組織はゆっくりと壊れていくという。
「失敗をさせてもらえない、目標数字でがんじがらめ、発言もさせてもらえない組織では、新しいものは生まれません。内向きの組織風土を変えるには、管理職以上の人がある程度任せて権限を委ねることが必要。そして、一人ひとりが意志を持って提案してくるような風通しの良い組織に変革する必要があります」 (及川さん)
この「こうしたい」という個人の動機を及川さんは「WILL」と呼ぶ。個々のWILLがなければ企業の持続的な成長はない。そのWILLを育む土台となるのが「心理的安全性」だ。
「ダイバーシティの実現のためにはフラットな組織が必要だと言われますが、役職や上下関係はあっても構いませんし、必要だと思います。大事なのは、一人ひとりの意見をリスペクトする寛容さと、心理的安全性です」(及川さん)
心理的安全性が確保され、寛容で相互理解のある組織であれば、社員の行動変容や組織風土改革のスピードも上がる。
持続可能な企業に必要な心理的安全性、そして対話

DEIは、単なる女性管理職比率などの数値目標を達成するためのものではない。多様な人材が活躍できる組織の構築は数年先を見据えた先行投資であり、企業の成長戦略の一翼を担うものでもある。
「どんな企業であっても、将来の事業と組織を考え、いま何を変えるべきか。それが見えているのは経営者をはじめとする企業のリーダー層です。ひとりひとりの能力の発揮を期待したときに、どんな制度、どんなサポートが必要かを考え、設計をし、その方の状況に合わせてサポート対応することが重要です。
そうした場があってこそ、あきらめる人がでず、能力を伸ばそうとする人たちがしのぎを削り、成長していきます。そういう組織だからこそ、生産性が上がり、新しいことが生まれ、持続可能な組織になるのです」(及川さん)
最後に、及川さんが触れたのがすべての鍵としての、組織内の「対話」だ。
「心理的安全性が確保された組織をつくり、お互いをリスペクトできる環境をつくるには、まずは組織のなかのひとりひとりが、”自分はどうしたいのか”、しっかり声を上げてみること。そして、それをひとりの声にとどめず、ジェンダー、世代の別なく声を集めて、『私たちの声』に変えて、組織を動かしていただきたい」(及川さん)
これはジェンダーギャップだけでなく、世代間の認識ギャップ(ジェネレーションギャップ)の解消にも通じる。
「対話と議論は違うものです。例えば『あなたはどう思う?』と問いかけ、なぜそう思うのか、とバックグラウンドまで本音を聞いていく。相手を理解し、お互いの意思を擦り合わせることが対話であり、組織内で交わされる対話こそがすべての組織風土改革の一丁目一番地なのです」(及川さん)
(取材・文:島田ゆかり、編集:Mashing Up 遠藤 祐子)
























