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- 「捨てられない絵本、あります?」2児の母の上司に聞いてみたら、家族の記憶が愛おしすぎた
子どもが昨年生まれたこともあり、2児の母である上司、Kさんに気軽な気持ちでおすすめの絵本を聞いてみた。すると、思いの外、エモーショナルなエピソードの数々がオフィスで飛び出した。
胸に秘めておくのはもったいない気がして、後日改めて記録させてもらうことにした。

すでにKさんの子ども二人は絵本を読む年齢ではなくなっている。それでも、Kさんが手放せなかった絵本を5冊選んでもらった。最終的に、娘さんが「この一冊も入れて!」と飛び込んできた1冊も加わり、6冊となった。
あなたの手元にも、捨てられない絵本はありますか?
[本記事は、Kさんとの対話をもとに構成したエッセイです。長さと明瞭さのために編集を加えています]
1.『フレデリック』(レオ=レオニ、訳 谷川俊太郎)

最初に紹介したいのは、レオ・レオニ 作の『フレデリック』です。レオ・レオニというと『スイミー』が最も有名だけれど、『フレデリック』はスイミーとはまた違う、ちょっと哲学的なお話。子どもが生まれて夫が絵本に凝っていた時期に買ってきました。
冬に備えて、ネズミたちは春から秋にかけて食べ物を集めるんですが、その中の一匹のネズミ、フレデリックだけは食べ物を集めず、ただ太陽の光を浴びたり、どこか一点を見つめていたり、半分眠っているかのようにぼうっとしたりしている。仲間が「どうして君は働かないの?」と聞くと、「こう見えたって僕も働いている」とフレデリックは答えます。
いざ冬ごもりが始まってだんだん蓄えがなくなってくると、みんな辛く苦しくなってくる。すると、フレデリックは自分が集めた「光、色、言葉」について語り、それにみんなが耳を傾けていく。
フレデリックのこの台詞は忘れられません。
「ぼくは ことばを あつめてるんだ。ふゆは ながいから はなしの たねも つきて しまうもの。」
特に息子はこの本をすごく好きでした。最後の一行で、「フレデリックは赤くなってお辞儀をした。そして恥ずかしそうに言ったのだ」と私が読むと、息子が続けて「そういうわけさ」って自分で締めるんです。それくらい大好きでした。
役に立たないと思われることが、人を救い、豊かにしてくれる。なんてことのないストーリーに見えて、働くとはどういうことか、豊かさとは何かという問いを投げかける本です。
2.『わたしのワンピース』(にしまきかやこ 作)

次は、娘が「この本大好きだったから入れて!」って持ってきてくれた本です。
主人公のうさぎちゃんが白いワンピースを作る。着て外を歩いていると、ワンピースがキャンバスのようになって、夕日の赤や虹の柄に変わるのがファンタジーで、色や絵が綺麗だから大好きみたいなんですよね。
内容的には女の子向けのように思えますが、実はこの絵本は、夫が子どもの頃にお母さんに読んでもらって大好きだった本だそうなんです。義母も懐かしがって、孫たちによく読み聞かせてくれました。
息子も2歳や3歳くらいの小さい時はこれが好きで、「読んで」って持ってきていました。子どもが小さい時って好みにそこまで性差はないと、見ていて思いましたね。「男の子だから電車の本が好き」とも限りません。2歳や3歳だと男の子もおままごとをするし、女の子も戦いごっこをするし、恐竜で遊ぶし……。ジェンダーは社会の影響も大きいんじゃないかと、絵本を読み聞かせていて実感しました。
3.『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ 作・画、瀬田貞二 訳)

『よあけ』もロングセラーで、1977年に福音館から出た本です。これもある日夫が買ってきて、息子のお気に入りの本になりました。このあいだ「あの本好きだったよね」と聞いてみたら、「あれは絵が綺麗なのと、書き出しがすごく不思議で面白かった」と、今でも覚えていたようです。
全編を通してものすごく静かなお話です。おじいちゃんと孫が湖畔で野宿をしていて、ずっと暗くてモヤがかかっている。けれど最後にやっと朝日が射す中を、ボートで漕ぎ出していく。
話に大きな展開はなく、言葉も少なく、ただ淡い水彩画のページが続いていく。絵本の良さはこれだと思います。静けさと表現の極致、ミニマリズムのような世界観。つい息をひそめたくなる夜明けの世界の魅力は伝わりづらいかもしれませんが、小さな子どもにも何か響くものがあるのではと思いながら、読み聞かせていました。
4.『わたし』(谷川俊太郎 ぶん、長 新太 え)

続いて、私が子どもの時に親が読んでくれた『わたし』です。1981年からのロングセラーで、この本を初めて手に取ったときのことも覚えています。
わたしはわたしから見たら、ただの「わたし」です。でも、親から見たら可愛い「娘」で、お兄ちゃんから見たら生意気な「妹」。先生から見たら「生徒」で、外国人から見たら「日本人」。そしてレントゲンで見たら、「がいこつ」。
視点がコロコロ変わる面白さがあって、子どもたちに読み継ぎたいと思って買い直しました。絵の長新太さんと谷川俊太郎さんはペアでいくつかお仕事をされていますが、私はこれが一番好きですね。自分が想像もしてなかった見方が出てくるのを、当時面白いと感じていたのだと思います。
「人は相対的な存在であり、関係性の中の生き物である」ということが、この絵本からは伝わってきます。もちろん子どもの時はそこまで思い至らなかったけれど、これは「社会構成主義」のことかもしれない、と思いました。編集者になり、ナラティブに関する本を読んでいて学んだ、社会構成主義における「すべては関係でできている」という概念に通じるものだと。
今ページをめくっていて気づいたんですけれど、挿絵も意図的に選ばれています。おそらく1981年当時としては珍しかったと思うのですが、お父さんがエプロンを着けてカレーを作っていて、お母さんが新聞を読んでいる。そういう細部も良いですね。
5.『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン 作・絵、 石井 桃子 訳)

これも「語り継ぎシリーズ」で、夫が子どもの時に読んでいた1965年の本です。今回の6冊の中で最も古いですね。私は大人になってから知りました。
家を擬人化しているおとぎ話っぽいストーリーで、「ちいさいおうち」はかつて緑豊かな自然の中で暮らしていたのですが、時代が進むにつれて周囲に汽車が通り、街ができ、都市になっていきます。大きなビル群に囲まれて、大通りでぽつんと廃墟のようになってしまう。最後は、移築で居場所を変えるという展開です。
うちでは、子どもが小さい時は夜寝る前に3冊、読んでほしい本を選んでもらっていたのですが、これもよく持ってきていました。でも文字が多いので、読む側としてはちょっと大変。途中で「やめたいな、これだったら1冊にしてほしいな」なんて思うこともありました。読んであげると面白くて目が冴えちゃうらしく、読み終わったら「もう寝ようね」って寝かせていました。
思想性はあるものの、勧善懲悪の世界ではなくて淡々と描いていく良さがあります。何十冊も絵本を読む中で感じたのは、翻訳絵本のほうが説教くささが少ないということ。子どもも好きでしたが、大人のほうがより深く刺さるかもしれません。
6.『あさになったのでまどをあけますよ』(荒井良二)

最後に、これが唯一新しい本です。
いろいろな街や自然風景が美しく描かれていて、子どもたちは「これ、あそこじゃない?」って、旅行で行った場所と重ね合わせてよくおしゃべりしていました。「どのページの場所がお気に入り?」「どの街が好き?」って私もよく聞かれました。
文章は少ないものの力強いタッチの絵が畳み掛けるように続き、最後は「きみのまちははれてるかな」と、朝になって窓を開けるところで終わります。
実はこの本は3.11を経て2011年に出版されたものだと後から知り、納得しました。朝になったら窓を開ける。たったそれだけのフレーズですが、読んでいて希望が持てるような絵本になっています。荒井良二さんは多作で、他の本は図書館で借りて読んだり原画展を見に行ったりもしましたが、やっぱりこの本が一番いいなと思っています。
選んだ6冊は結果的に古い本ばかりになりましたが、やっぱりロングセラーとして読み継がれているものには、時代を超える良さ、古典としての強さがあると思います。もちろん、定番の『ぐりとぐら』や『はらぺこあおむし』も残してありますけど、今回は思い出深いものを選んでみました。絵本は本当に、捨てられないものばかりです。


























