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- 日本発「シャンプーのきざみ」をグローバル標準へ。P&Gが実証する、13億人の不便を解くインクルーシブデザイン
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「妊娠したかもしれない」——その結果を、誰よりも先に知りたいと思うだろうか。だが、もし自分一人で検査の結果を知ることができなかったら……?
世界には、視覚や認知、身体機能など何らかの障害を抱える人が13億人以上いると言われる。彼・彼女らにとって「商品が使えるかどうか」は、単なる利便性の問題ではない。尊厳に関わる問題だ。
欧州では2025年6月にEUアクセシビリティ法(EAA)が施行され、製品・サービスのアクセシビリティ(利用しやすさ、アクセスのしやすさ)対応が企業に義務付けられた。多様な消費者のことを考え抜き、より多くの人に届く商品を設計できるかどうか──それは企業の成長戦略そのものだ。
世界最大級の日用品メーカーP&Gで、同社初の「カンパニー・アクセシビリティ・リーダー」を務めるサム・ラティフ氏は、全盲の当事者としてこの問いに正面から向き合っている。
「妊娠検査薬の結果を、誰かに読んでもらわなければならない」

P&GでITの仕事をしていたラティフ氏が、アクセシビリティの重要性を痛感したのは、母親になろうとした時だった。
「フルタイムで働きながら、視覚障害がある母として子育てをする中で、社会がいかに不便(インアクセシブル)であるかを痛感しました。『この商品は何?』『どうやって使うの?』と、常に誰かに尋ねなければならなかったからです」
中でも心に深く刻まれているのが、妊娠検査薬のエピソードだ。
「妊娠したかもしれないと思った時、私は妊娠検査薬の結果を一人で読むことができませんでした。本来なら誰よりも先に知りたい情報を、家族や友人に先に知られなければならなかったのです」
もっともプライベートであるはずの情報の取得を、自分一人で完結できない。それは尊厳に関わる問題だった。
P&Gは「クリアブルー」という妊娠検査薬ブランドを展開している。ラティフ氏は社内のアクセシビリティ改革の一つとして、この問題に取り組んだ。現在P&Gは、視覚障害のある女性向けに「Be My Eyes」というアプリを通じたソリューションを提供している。
「専用アプリから匿名でビデオ通話をかけると、担当者がスマートフォンのカメラ越しに検査薬を確認し、結果を読み上げてくれるサービスです。テクノロジーと人のサポートを組み合わせることで、プライバシーを守りながら情報を得られる仕組みを作りました」
「自分で自分の身体のことを知る」という当たり前の権利を、企業のサービスとして保障した一例と言える。
「あなたが直面するバリアは、すべて私が取り除く」
ラティフ氏がP&Gに入社したのは、今から約25年前のことだ。パンテーンやジレット、パンパースといった幼い頃から親しんできたブランドへの愛着に加え、世界中の人々と働ける環境に魅力を感じたと言う。
しかし、視覚障害がある彼女がグローバル企業でキャリアを築くには、多くの困難が予想された。入社の決め手となったのは、あるシニアリーダーの言葉だったという。
「彼は私にP&Gで働くよう強く勧めてくれました。そして、『もしあなたが仕事をする上で何らかの障壁(バリア)に直面したら、私がそれらすべてを取り除くことを約束する』と言ってくれたのです」
入社後はIT部門で15年ほどキャリアを積み、2015年からはP&G全体にアクセシビリティを組み込む役割へと転身。現在はP&G初の「カンパニー・アクセシビリティ・リーダー」として、同社が持つ65以上のブランドをよりインクルーシブでアクセシブルなものにしていくための責任を担う。
そもそも視覚障害者がIT部門で働くことに、疑問を持つ人もいるかもしれない。しかしラティフ氏にとって、テクノロジーは世界と自分をつなぐ架け橋だった。
「私はテキストを音声に変換するソフトウェアを使っています。パソコンのキーボードの『F』と『J』のキーには、小さな突起(触覚記号)がありますよね。それを頼りに、画面を見なくてもタッチタイピングができるのです」
自身がテクノロジーによって「できる」ことを増やしてきたからこそ、商品やパッケージのわずかな工夫が、障害がある人の生活を劇的に変えられると信じている。
日本が生んだ「シャンプーのきざみ」を世界標準へ

「実は、シャンプーのボトルに刻まれた『ストライプ(線)』で製品を識別する工夫は、1990年代に日本で始まったことなのです」
当時、日本のメーカーが視覚障害者の声を受けてシャンプーボトルに「きざみ」を入れ、それが業界全体にも広がったエピソードがある。ラティフ氏はこれに深い敬意を払いつつも、課題も感じているという。
「この日本のシャンプーからはじまった素晴らしい工夫ですが、ヘアケア以外の製品では共通のルールがまだそこまで広がっていません」
そこで彼女は、日本発のアイデアをさらに進化・体系化した「触覚記号(Tactile markings)」を発案。データは誰でもダウンロードできるよう公開し、世界中に広めようとしている。

これは視覚障害者のためだけではない。洗髪中に目を閉じている人や、視力が低下した高齢者にとっても役立ち、誰もが直感的に分かりやすいデザインとなっている。
「日本では6割以上の人が眼鏡をかけているというデータを見たことがありますが、シャワーを浴びる時は眼鏡を外しますよね。つまり浴室で製品が見分けにくいのは、多くの人にとって共通の課題なのです。だからこそ、すべての製品に『見つけやすい触覚システム』が必要だと考えました」
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