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- 話題のAI生成映画「Hell Grind」を観に行った。「不気味の谷」だけでなく、AI俳優の演技に引き込まれる瞬間もあった

- 急成長中の米ユニコーン企業・ヒッグスフィールドAIが、AI俳優が主演するSFアクションスリラー「Hell Grind(ヘル・グラインド)」を製作した。
- 制作費は、長編映画としては超低予算の約50万ドル(約8000万円)だった。
- 実際に試写会に足を運び、その完成度を確かめてきた。
AI生成映画「ヘル・グラインド」の中盤に差し掛かった頃、私は思いがけない体験をしている自分に気づいた。“本物の感情”が湧き上がってきたのだ。
男性主人公のロコ(Roco)が、誘拐されたばかりの恋人の写真を見つめながら、孤児院で共に育った日々を回想するシーンだった。そこに宿っていた悲しみや切望は、本物のように感じられた。
だが、その感覚は長くは続かなかった。
回想シーンの途中で、ロコとAI生成の共演者たちが、目を見開いたまま不気味なまでに同調して笑い始めたからだ。ニューヨークのメトロ・プライベート・シネマの座席でポップコーンを頬張っていた私に、AI特有の「不気味の谷」が再び襲いかかってきた。

2026年、ジェネレーティブAI(生成AI)はエンターテインメント産業のあらゆる領域に入り込んでいる。
自分たちの仕事が奪われるのではないかと不安を募らせるクリエイターは多く、その懸念は切実だ。ポストプロダクション(仕上げ)の現場で若返り(de-aging)などの視覚効果のためにAIが活用されているが、短編ドラマの世界ではすでにAIキャラクターに役を奪われている俳優も出始めている。
これは、俳優組合のSAG-AFTRA(映画俳優組合-米テレビ・ラジオ芸術家連盟)にとって最大の懸念事項だ。同組合は6月第一週、AI合成俳優を起用したい場合、プロデューサーは事前に組合と交渉しなければならないという内容の新たな契約条項を承認した。
AIを最大限活用した「ヘル・グラインド」は2026年5月、カンヌ国際映画祭期間中に開催されたサイドイベント「マルシェ・デュ・フィルム・カンヌ(Marché du Film in Cannes)」でお披露目された。
製作したのは、クリエイターやブランド、マーケター向けにAIプラットフォームを運営するスタートアップ、ヒッグスフィールドAI(Higgsfield AI)だ。Snapの元生成AIディレクターとAI研究者という2人のカザフスタン人が創業し、AI技術が単なる短尺動画の制作ツールにとどまらない可能性を秘めていることを証明するためにこの作品を企画した。
2026年初頭に企業評価額10億ドル(約1600億円、1ドル=160円)を突破した同社は、95分のこの作品の製作に約50万ドル(約8000万円)を投じ、その大半をコンピューティング(計算資源)コストに費やしたという。
いまや、ハリウッドの大作でも部分的にAIが使われることは珍しくない。しかし、AIが生成した映像だけで全編を製作した作品として、「ヘル・グラインド」はこれまでで最も注目を集めている。
ヒッグスフィールドAIは、社内クリエイターと外部の映画製作者で構成されたチームを編成。彼らは非常に詳細なテキストプロンプト(通常は約3000語)を駆使して約100時間分のコンテンツを生成し、それを編集して1本の映画にまとめ上げた。
脚本に関しては、一部の短い「つなぎ」シーンを除き、執筆にAIを使用していない。この点について、同社の共同創業者兼CEOのアレックス・マシュラボフ(Alex Mashrabov)氏は私に、AIが書いたシーンは作品全体の中で明らかに見劣りしていたと認めた。
完成した作品は、視覚的には見応えがあり、ストーリーもそれなりに成立している。ビデオゲームと「猿の惑星(Planet of the Apes)」のような特殊効果を多用した映画の、ちょうど中間に位置しているような仕上がりだ。

「これは新しいワークフローだ。私たちに何が可能なのかを世界に示す意味で極めて重要なことだ」
マシュラボフ氏は試写会で、観客にそう語った。
「製作プロセスはこれまでと大きく異なる。AIを活用し、製作過程をさかのぼって何度も修正を重ねることで、クリエイティブディレクターが思い描く感情を正確に表現できるようになる」
同社は現在、映画の一部をYouTubeで公開しており、数週間以内にそのワークフローや製作プロセス、プロンプトをオープンソースとして公開する計画だという。
私は「ヘル・グラインド」を観ている間、キャラクターの動きにどうしても「違和感」を覚え、ストーリーに集中できない瞬間が何度もあった。例えば、ロコがピザを持つ手つきがまるで生まれて初めて食べ物に触れるかのように不自然だったし、劇中に登場するAI生成の子どもたちは総じて不気味で、AIによる声の演技も一貫性に欠けていた(あるキャラクターのアクセントは、イギリス英語とアメリカ英語の間を行ったり来たりしているようだった)。
それでも、優れたAIプロンプターがいずれ、ハリウッドで引く手あまたの存在になる日が近いのではないか、という予感を拭い去ることはできなかった。
「TAR/ター(Tár)」や「ワン・バトル・アフター・アナザー(One Battle After Another)」のような作品で、AIの俳優や脚本家が大きな役割を果たすとは考えにくい。だが、製作スピードの向上を狙う予算にシビアな経営陣にとって、この技術は抗いがたい誘惑となるはずだ。
中でも、視覚効果(VFX)の予算が大きな制約となりがちなアクションやSFといったジャンルでは、特にその傾向が強まるだろう。同時に、壮大なアイデアはあるが予算が限られているインディペンデント系の映画製作者にとっては、新たな扉を開く可能性もある。
「予算とチャンスは、世界中に平等に分配されているわけではない」とマシュラボフ氏は言う。
「この映画が、次世代のクリエイティビティに火をつけるきっかけになることを願っている」

























