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- BYDは反面教師?EMTA、他人の経営資源で日本に軽EV投入する奇瑞汽車の深謀遠慮
連載
浦上早苗の インサイド・チャイナ

中国自動車大手の奇瑞汽車(チェリー)やオートバックスセブンなど日中5社が新EVブランド「EMTA(エムタ)」を立ち上げ、2027年に日本で軽乗用車の電気自動車(EV)を発売すると発表した。2023年に乗用車EVで日本に進出したBYDも、近く軽EV「RACCO(ラッコ)」を発売するなど日本のEV市場では軽が主戦場になっている。奇瑞の動きにはBYDを風よけにしながらリスクを抑えて成果を出したい思惑がにじむ。
2029年までに4車種投入

新EVブランドEMTA(エムタ)を立ち上げたのは奇瑞汽車、江蘇悦達、オートバックス、国軒高科(ゴーション・ハイテック)、アネスト岩田の5社の合弁会社であるEMTだ。
28日に開かれた発表会で、エムタは軽EVを2027年に発売し、2029年までに4車種の展開を目指すと表明した。
日本向けに設計・開発した車両は、奇瑞の車体プラットフォームを利用し中国で生産する。レベル2の自動運転支援技術を搭載し、価格はガソリン車並みに設定、将来的に世界市場での展開も視野に入れる。
協業する5社の役割は、奇瑞が車両開発と生産、江蘇悦達が生産設備の提供、国軒高科が車載電池の供給、日本国内での車両の販売とアフターサービスはオートバックスセブン、そして塗装設備や技術の提供をアネスト岩田が担う。
運営会社のEMTは2025年1月に設立され、中国の報道によると出資比率は奇瑞3:江蘇悦達3:国軒高科2:オートバックスセブン2:アネスト岩田1。EMTは奇瑞が日本にEVを輸出するために設立した合弁会社と言える。
EVシフトとハイエンドに苦戦する奇瑞
奇瑞は中国の自動車市場が立ち上がった2000年代、外資に頼らない「中国自主ブランド」メーカーの新星として、ハイアールやレノボと並び注目されていた。当時は中国で部品メーカーが育っておらず、日本企業との取引も多かったので、自動車に関係する日本企業の社員から「奇瑞と接触したことがある」とよく聞いた。
今回の5社合弁も、奇瑞と日本企業との長きに渡る関係がベースになっていることがうかがえる。
奇瑞は創業間もない2001年に輸出を始め、ロシア、ブラジル、中東など自動車の需要がありながら現地の関連産業が未熟な国に手ごろな製品を供給することでシェアを高めていた。しかし、輸出しているのは低価格のガソリン車だ。
そのため、自動車販売で中国勢2位、輸出トップという戦績にもかかわらず、EVが話題の中心となった近年の自動車業界での存在感は高くない。
同社が日本に進出するのは、中国でEVシフトに出遅れたことや、国内でローエンドのイメージが定着していることが背景にあるとみられる。
奇瑞の2025年の販売台数は約280万6000台で、中国メーカーではBYDに次ぐ2位につけている。輸出台数は134万4000台で、長年にわたって中国トップの座を維持している。
一方で同社は2000年代に発売した低価格車「QQ」が現在に至るまで最大のヒット車種となっており、いまだにそのイメージが強い。
新エネルギー車(EV、PHV)に参入したのは2007年と早く、中国では2023年以降、5つの新エネルギーブランドを立ち上げたが、競争激化もあって目立った成果は出せていない。2024年の販売台数に占める新エネルギー車の比率は22.41%にとどまった。
先駆者だった奇瑞が時代の変化に対応できなかったのは、資本関係の複雑さから昨年まで上場できず、外部調達の手段が限られていたことも関係している。安定して売れるガソリン車に頼り続けるしかなく、研究開発比率も3〜4%と新エネルギー車に力を入れる他社より低い。
エムタ経営陣の顔ぶれ

7度目の正直で、2025年9月に念願の香港取引所上場を果たした奇瑞は、調達した資金を新エネルギー車や自運転技術の研究開発と海外展開に投じる方針を示し、これまでの遅れを取り戻すべく一気に動いている。
2026年1月にはBYDのプレミアムブランド「DENZA(騰勢)」の元幹部が奇瑞とファーウェイ(華為技術)の共同ブランド「智界」の幹部に就いた。
エムタについても奇瑞が2025年9月に同プロジェクトの求人を始めるなど、水面下で着々と準備を進めていた。
奇瑞はEVの主戦場を競争が激しい中国ではなく海外に定めたのだろう。自社の名前がついていない新ブランドが日本で成果を挙げれば、イメージの刷新とハイエンド化に弾みがつく。
EMTのCEOに就いた何暁慶氏は、南京汽車集団 (後に上海汽車工業集団と合併) 副総裁を経て奇瑞の副総裁として海外市場の開拓に尽力した。2021年に初の長安フォードの総裁に就任し同社初の中国人トップとなったが、長安フォードの販売台数は減少に歯止めがかからず、2024年6月に定年退職していた。
長安フォード時代の評価は分かれるものの、この時期はBYDの猛攻もあって日本、ドイツ系を含めた合弁メーカーが軒並み苦戦しており、何氏一人でどうにかなるものではなかっただろう。
いずれにせよ何暁慶氏は中国自動車業界の「顔」と言える存在であると同時に、一般的には現役を終えた世代でもある。ごりごりに市場開拓を進めるというより、奇瑞としっかり意思疎通しながら5社が連なるプロジェクトの重し、調整役を担う役割が期待されているようにみえる。
CTOに就いた山本浩二氏とCMOに就任した打越晋氏はともに日産自動車での経験が長い。日産の中国合弁会社や欧州メーカーの日本トップを歴任した打越氏は合弁の経営にも精通している。
エムタに参画した中国2社の目的も明確だ。韓国起亜と合弁を運営する江蘇悦達は、2020年に最初の車種を発売した中国EVスタートアップ「高合汽車(HiPhi)」の製造を受託した。だが同社は2024年に経営破たんし、数十万台分の設備が宙に浮いた。
江蘇悦達は2026年1月に奇瑞と協業を開始し、高合汽車向けの生産設備を奇瑞向けに転用するために改修工事を始めた。現地の報道ではハイエンドの輸出車両の生産を計画しており、エムタ向けということだ。
電池メーカーの国軒高科の狙いも分かりやすい。中国の車載電池市場はCATL(寧徳時代)とBYDがシェアの大半を占めており、国軒高科が存在感を出すのは困難だ。もし日本市場で活路を開ければ、国際市場でのシェア拡大に弾みがつく。
BYDを参考にスキーム構築か

奇瑞が5社で合弁会社を立ち上げたのは、2023年に中国企業として最初に日本の乗用車市場に進出したBYDを参考にし、リスクを回避しつつスピーディーな展開を進めるためだろう。






























