

























経済産業省と東京証券取引所が共同で実施する「なでしこ銘柄」が、今年度で14年目を迎えた。女性活躍推進に優れた上場企業を選定するこの制度に、今年度は222社が応募。なでしこ銘柄26社、NEXTなでしこ共働き・共育て支援企業23社が選ばれた。
「経営戦略としての女性活躍」を軸に、選定企業がどのような取り組みを進め、組織にどんな変化が生まれているのか。2026年3月19日に開催された発表会で語られた議論を紹介する。

発表会の冒頭では、経済産業大臣政務官の小森卓郎さんが、人口減少による労働力不足を背景に、「性別や国籍にとらわれず、多様な人材の力を生かせる組織が重要」と強調。海外でDEIをめぐる揺り戻しも起きるなか、「ダイバーシティ経営は生産性やイノベーションを高め、日本経済の成長につながる」と述べた。
また、東京証券取引所執行役員の礒本直樹さんは、「共働き」だけでなく「共育て」が当たり前になる社会への期待を語った。
なお、第6次男女共同参画基本計画では、2030年までにプライム市場上場企業の女性役員比率を30%にする政府目標が改めて掲げられている。今年度のなでしこ銘柄選定企業では、平均27.3%に達し、すでに目標を達成している企業も7社あった。
選定証の授与後、なでしこ銘柄から2社、NEXTなでしこから2社の代表がスピーチを行った。

若者の大都市圏流出が進む地方では、優秀な人材の獲得が困難であり、とりわけ理系技術者の確保はハードルが高い。そこで永田さんが1991年に社長就任時に打ち出したのが、女性の雇用と活用で人材不足を補う方針だった。
しかし当初は職場環境の整備が追いつかず、結婚や出産を機に退職する女性が後を絶たなかった。「せっかく技術や知識を身につけ、戦力となった女性社員が辞めてしまう状況に対し、何とか引き止める方法はないかと考えた」と振り返る。
2007年には女性だけで構成する「なでしこ委員会」を設立し、現場の声に基づいた50項目の改善を実行した。その結果、結婚や出産で退職する女性はいなくなったという。
現在では女性比率が5割を超え、プロジェクト責任者の4割を女性が占め、男女の賃金格差もほぼ解消された。さらに永田さん自身が医師であることから、婦人科がん検診を定期検診に組み込み、がんと診断された社員は全員が職場復帰を果たしている。
出光興産株式会社 代表取締役副社長、副社長執行役員の澤雅彦さんは、5年連続の選定に対する感謝を述べたうえで、2019年の旧昭和シェル石油との統合後に掲げた企業理念「真に働く」を紹介。
「長きにわたって男性中心だった当社で、女性が働きやすく、やりがいを感じられる職場づくりは、国内外の全社員が仕事とプライベートを両立し、互いの能力を最大限に発揮できる環境づくりにつながる」と、DE&I推進を重要施策に位置づけた背景を語った。

NEXTなでしこからは、アサヒグループホールディングス株式会社 取締役兼執行役 Group Chief People Officerの谷村圭造さんが登壇。「仕事と家庭のどちらかを犠牲にするのではなく、両立することが充実した人生につながる。そういった形を会社としても社会としてもつくっていきたい」と抱負を述べた。
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 執行役員 CHROの嘉納亜紀子さんは、百貨店業という業態の特性を踏まえた課題を率直に語った。従業員の7割が女性で、制度面は昭和の時代から充実していたが、上位職になるほど女性比率が下がる構造は、ここ数年変わらなかったという。
嘉納さんが人事担当になって初めて部長候補の女性たちを集め、「なぜ上位職を目指さないのか」と聞いたところ、最も多かった答えは「上司が長時間働いているから」だった。
「自分の上位職があまりに過酷な働き方をしていると、その下の世代はそれになりたがらない」。その気づきから、性別や世代を問わず、ゆとりを持って働ける環境こそが女性活躍の基盤だという認識に至ったという。
「これからは女性に限らず、社員全員がしっかり働ける形を会社の中で作っていきたい」と締めくくった。
代表企業のスピーチに続き、経済産業省 経済産業政策局長の畠山陽二郎さんが、応募企業全体の傾向と審査のポイントを紹介した。
まず各階層の女性比率について、直近数年間で採用層・管理層ともに徐々に上昇していることが示された。

今年度のなでしこ銘柄選定企業の女性役員比率は27.3%で、男女共同参画局が公表したプライム市場企業の平均値と比較して高い水準にある。選定企業のうち、政府目標の30%をすでに達成している企業は約3割に上り、女性正社員比率に対する女性管理職比率が50%を超える企業も半数以上あった。
一方、男女間賃金差異については、有価証券報告書で状況分析と今後の対策を開示している企業が増加し、選定企業の約9割が開示を行っていた。しかし正規雇用の男女間賃金差異は昨年と比較して大きな変化がみられず、「実際に賃金差異を縮小するまでには、なお時間がかかる」と畠山さんは分析する。
対策としては、61.5%の企業が「女性管理職の登用パイプラインの構築」を、26.9%の企業が「男女ともに長く働きやすい職場環境の構築」を挙げた。
両立支援の面では、NEXTなでしこ選定企業の男性正社員の育児休業取得率が95.4%に達した。厚生労働省の調査による企業平均40.5%と比べても際立って高い数字だ。
なお、なでしこ銘柄選定企業のROIC指数は、TOPIX構成企業全体と比較してパフォーマンスが高い傾向があり、コロナ禍後の回復力でも選定企業が上回ったという。
発表会の最後に、選定企業の代表2名と選定委員2名によるパネルディスカッションが行われた。
登壇したのは、株式会社大和証券グループ本社の取締役兼代表執行役社長、荻野明彦さん、東京ガス株式会社の常務執行役員DE&I推進担当、小西雅子さん、なでしこ選定委員会委員長で東京大学名誉教授の佐藤博樹さん、そして選定委員でリクルートワークス研究所所長の堀川拓郎さんだ。

東京ガスの小西さんは、今年140年を迎える同社が「第3の創業期」にあり、DE&Iを経営戦略の中核に据えていると紹介した。
「男性従業員が8割を占めるガス会社だからこそ、まずは女性活躍を起点として取り組みを進めている」と語り、「制度を整備するだけでは私たちの思いは届かない。環境の整備、組織風土の改革を合わせて長期的・継続的に進める必要がある」と強調した。
一方、大和証券グループ本社の荻野さんは、「女性活躍推進は2005年にスタートさせた。そのとき私は人事課長だった」と切り出した。
当時の出発点は、ダイバーシティという言葉すらなかった時代の、シンプルな問題意識だったという。「とにかく女性に辞めてほしくない。結婚・出産・育児のタイミングで退職する人がまだまだ多かった」と当時を振り返る。
荻野さんが取り組んだポイントは3つ。長時間労働の改善、人事制度の充実と利用しやすい環境の提供、そして女性社員の責任あるポジションへの登用だ。
なかでもインパクトがあったのが、19時前退社の導入だった。当然、現場からは強い抵抗があったという。荻野さんが出したメッセージは明快だった。「時間内にできなかったら成績が下がっても構わない。成績がいくらよくても時間を守らない支店長は、次の異動で飛ばす」と社内に通達したのだ。
結果はどうだったか。「実際に成績は落ちなかった」と荻野さんは言う。限られた時間で成果を出す発想を持って働くことで、それまで見えなかった無駄が見えるようになり、業務プロセスの見直しと効率化が進んだ。そして退社時間が決まることで、女性が安心して働ける環境にもなった。
「男性が長時間残業を好きだったかといえば、そんなわけがない。遅くまで残らないと評価されない雰囲気があっただけ。女性が働きやすい環境を整えると、実は男性も働きやすい環境になった」と荻野さんは語った。
こうした取り組みは、実際に組織にどのような変化をもたらしたのか。東京ガスの小西さんは、この10年間で女性管理職比率が2倍に増えたと報告した。
さらに全従業員を対象としたエンゲージメント調査では、「挑戦したい意欲」と「多様性の発揮」の2項目が4年連続で改善している。男性の育児休業取得率はほぼ100%、平均取得日数は100日だ。

「育休を進めることで男性の意識も相当変わった。仕事中心だった社員が、仕事と家庭の両立を意識するようになり、多様な働き方、多様なキャリアがあるという意識が浸透してきた」と話す。
大和証券グループ本社の荻野さんも、エンゲージメントサーベイで80%以上の社員が高いスコアを示していることに触れ、女性活躍推進が生産性の向上にもつながっている手応えを語った。
一方で、荻野さんは「女性活躍推進は女性を優遇するための取り組みではない。性別や働き方に関係なく、能力のある人が正当に機会を得て活躍できる組織を作ることが、結果として組織全体の力を上げていく」と繰り返し社内に発信してきたという。
こうした企業の実践を受けて、選定委員の堀川さんは審査全体を通じた所感として、選定企業に共通する特徴を指摘した。
「いずれの企業も女性活躍を個別の人事施策としてではなく、経営戦略のど真ん中に置いている」と総括する。
制度をつくるだけでなく、活用され、成果につながっているか。そして成果を研修の満足度のような施策レベルではなく、組織への効果、事業の成果、企業価値への貢献というところまで視野を広げて捉えているかが、企業の差を分けるポイントだったという。
さらに堀川さんは、2040年に向けて労働人口が1100万人不足するとの予測に触れ、企業が「選ぶ側」から「選ばれる側」に変わりつつある現実を指摘した。
「制度があるということだけではなく、その結果としてどんな成長機会が与えられるのか。従業員や就職者からすると、『機会の質』がより重要になる。その機会の質を提供し続けられない企業は、生き残ることが難しくなる時代だ」。
そして「女性活躍は選択肢ではなく、すでに企業経営の前提条件だ」と結んだ。

パネルディスカッションの最後に、佐藤委員長が選定企業へのメッセージを求めた。
東京ガスの小西さんは「エネルギー業界全体が男性の多い業界。自社のDE&Iの取り組みを進めながら、業界全体に発信していきたい」と述べ、「多様性を力に」という合言葉のもと、社員一人一人の成長と会社の成長を両立させていく決意を語った。
続いて、大和証券グループ本社の荻野さんは、女性登用の本質について改めてこう語った。
「女性登用と聞くと優遇だと思われるが、男性でもまったく同じ。数多くいるなかであなたをこのポジションに持っていくのは、あなたに期待しているからだ。機会を与えて、成果が出なければ代わってもらう。それは男性も女性も同じ」と力を込めた。
そして「まずは登用してみるところからチャレンジしてほしい」と会場に呼びかけた。
堀川さんは「女性活躍が、すでに『取り組むべきテーマ』から『どこまで経営や事業を変えたか』が問われるフェーズに入っている」と総括した。
佐藤委員長は「選定企業の皆さんには、自社の取り組みをさらに推進していただくと同時に、同業他社やそれぞれの地域に成果を広げていってほしい。日本社会全体にこういう企業を増やしていくことが大事だ」と結び、パネルディスカッションを締めくくった。
(取材・文・撮影:藏西隆介)
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