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グーグルマップのフル機能が使えない韓国。でも、それはデジタル赤字の「防波堤」なのかもしれない
唐鎌大輔 · 2026-05-13 · via Business Insider Japan
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  3. グーグルマップのフル機能が使えない韓国。でも、それはデジタル赤字の「防波堤」なのかもしれない

グーグルマップのフル機能が使えない韓国。でも、それはデジタル赤字の「防波堤」なのかもしれない

4月末、韓国の首都ソウルでグーグルが開催したAI関連イベントの様子。中央はAI開発部門グーグル・ディープマインドのデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)。
4月末、韓国の首都ソウルでグーグルが開催したAI関連イベントの様子。中央はAI開発部門グーグル・ディープマインドのデミス・ハサビス最高経営責任者(CEO)。
Chris Jung via Reuters Connect

黄金週間の連休中に韓国を訪ね、近年市民権を得た感のある「デジタル赤字」(その意味するところは過去の寄稿を参照)について深く考えさせられた。日本の現在地との比較を含めて、韓国の状況を報告させていただきたい。

あまり馴染みのない海外の国や地域を訪れた際、読者の方々の多くがまずはグーグルマップを開き、空港から目的地までのルートや所要時間を把握しようとするのではないか。

韓国で同じことをしようとすると、いつも通り電車やバスなど公共機関を使う経路が表示されるものの、徒歩や車でのルートナビが機能しないことに気づかされる。

韓国に取引先を持つビジネスパーソンや韓国ファンの間ではほぼ常識的な事実のようだが、筆者にはそうしたご縁がなかったこともあり全く知らなかった。

詳しい方に聞いてみると、韓国は現時点でも隣国の北朝鮮と「休戦中」なので、安全保障上の観点から高精度地図データの国外持ち出しが制限されているという。

韓国当局は2026年2月、グーグルに対して「セキュリティに関する厳格な条件の順守を前提」とする条件付きの許可を出したものの、筆者の訪問時点でその成果は反映されていなかった。

同国の主要通信社である聯合ニュースによれば、当局は「グーグルマップやグーグルアースなど世界展開するサービス向けに韓国領土の衛星・航空写真を提供する際、軍事・機密施設を隠すなどのセキュリティ処理を施した映像を使用するよう求め」ており、「(グーグルの)韓国における提携先企業が保有する同国内のサーバーで原本データを加工し、政府の審査・確認を経たデータのみ持ち出し可能」だとか。

そんな事情があって、韓国を頻繁(ひんぱん)に訪れる人たちの間では、同国のインターネットサービス大手ネイバーやカカオが提供する地図アプリを使うのが定番になっている模様だ。

セキュリティ由来の制約はグーグルだけの問題ではなく、iPhoneや紛失防止タグのAirTagなどアップルの端末もしくはアプリで使える「探す」機能も動作しない。App Store経由でダウンロードできるアプリも日本と同じ感覚で機能を使おうとすると意外に制限が多いことに気づく。

韓国国内で利用されているスマートフォンの7割以上がAndroid OSを搭載したサムスン電子製のGalaxyシリーズなので、結果的に同国最大のアプリストアはGoogle Playとなっている。App Storeはそれに次ぐポジション。

さらに、同国の通信キャリア3社(SKテレコム、KT、LGユープラス)とネイバーが設立した合弁企業が運営する国産(Android向け)アプリストア「ONE store」も大きな市場シェアを持ち、大まかに言って三つ巴の構図。それが巨大プラットフォーマーの徴収する利用手数料へのけん制になっているとの評価がある。

一方、日本国内に目を向けると、アプリストアのシェアはApp Storeが6割、Google Playが4割という寡占状態で、第三勢力としての国産アプリストアが存在していない。

韓国に対しては、上述のような安全保障上の措置によって、グローバルスタンダードから取り残された不便な環境が温存されているとの評価が与えられがちだが、結果的に(意図せずして)巨大プラットフォーマーにデジタル主権を全面開放する事態を回避できている面もある。

市場がグローバルに開放されている状態が必ずしも国家の経済的利益と合致するわけではないことを示す事例という意味では非常に興味深い。

日韓のデジタル赤字を比較してみると

日韓両国のデジタル赤字、正確には国際収支の内訳としてのデジタル関連収支を比較すると、前節で見たような「全面開放していない」韓国の強みがよりはっきりと見えてくる。

2024年の数字で比較すると、デジタル関連収支は日本が452億ドルの赤字、韓国は15億ドルの赤字と、圧倒的な差を確認できる【図表1】。

【図表1】日韓のデジタル関連収支の比較(2024年)。知的財産権等使用料に関しては、産業財産権や研究開発に係るライセンス使用料以外の「ソフトウェアや音楽、映像、学術を複製して頒布するための使用許諾料」を計上した。
【図表1】日韓のデジタル関連収支の比較(2024年)。知的財産権等使用料に関しては、産業財産権や研究開発に係るライセンス使用料以外の「ソフトウェアや音楽、映像、学術を複製して頒布するための使用許諾料」を計上した。
出所:経済協力開発機構(OECD)資料よりみずほ銀行国際為替部作成

なお、デジタル関連収支を含むサービス収支全体で見ると、日本は184億ドルの赤字、韓国は(主に旅行収支赤字の影響で)294億ドルの赤字と逆転する。

しかし、韓国は貿易黒字が1109億ドルと大きく、(サービス収支を含む)貿易・サービス収支では815億ドルの黒字を計上。242億ドルの貿易赤字が足を引っ張り、貿易・サービス収支が426億ドルの赤字に終わった日本を再逆転する形になっている。

為替需給への影響(韓国はウォン買い、日本は円売り)という意味で、大勢を決しているのは貿易収支だ。しかし、日本のデジタル関連収支は年々膨らんでおり、今後もその流れに大きな変化はないことが予想される。一方、韓国のデジタル関連収支は抑制が利いて収支均衡にとどまっている。この違いは非常に興味深い。

デジタル赤字を抑制できている理由はおそらく一つではない。しかも、安全保障上の措置によって外国資本を排除したことが韓国では功を奏したという話であれば、その結果を経済的な政策の優劣で語るのはそもそも相応しくもない。

それでも、韓国が2021年9月、世界に先駆けて改正電気通信事業法(通称グーグル・アップル課金禁止法)を施行したことには注目しておく必要があるだろう。巨大プラットフォーマーがアプリ開発者に自社の決済システムのみを利用するよう強制することを法的に禁じ、違反した場合に罰金を科す内容だ。

韓国に後れを取ることおよそ4年、日本も同様の措置を講じた。2025年12月に施行された「スマホソフトウェア競争促進法」がそれで、巨大プラットフォーマーに他の事業者によるアプリストアの提供を認めさせたり、自社以外の決済システムの利用制限を禁じたりしている。

とは言え、日本には韓国のONE storeのような第三勢力が存在しないため、事実上App StoreとGoogle Play以外に選択肢がない。したがって、デジタル赤字の抑制という観点では、上述の競争促進法に期待する余地はほとんどない。アップルとグーグルによる縄張り争いはすでに終わっていて、その後でルールを設けても得られるものは多くないというわけだ。

もっとも、繰り返しになるが、韓国は北朝鮮との休戦中という特殊な状況がまずあって、安全保障上の観点から外国企業の(データの取り扱いなど)活動を制限した結果、現状にたどり着いている。

もしそうではなく、巨大プラットフォーマーによるサービス提供など自由な経済活動を制限した上で、国民が一定の不便さを甘受し、中長期的に「デジタル小作人」的な立場に陥る展開に抗うという話だったなら、それはなかなか成立していなかったのではないか。

いずれにしても、日本を含む多くの国々が、地図や検索、ソーシャルメディアなどの市場をことごとくアメリカの巨大プラットフォーマーに譲り渡してデジタル小作人となり、広告収益や顧客データ、決済手数料などを年貢として支払い続けている現状を踏まえると、韓国の立ち位置がかなり際立って見えることは確かだ。

懸念も多いが学べることも多い

なお、ここまでの議論はあくまでデジタル関連収支を比較したもので、日韓経済の総合的な優劣を決する意図はない。

韓国は世界屈指の速度で少子高齢化を経験していて、出生率に限って言えば、日本と比較しても圧倒的に低い(ただし、2024年から2年連続で上昇し、子どもの増加率も伸びている)。

国内の顧客基盤が失われていく未来を前提とすれば、第三勢力としての国産プラットフォームに満足している場合ではなく、海外市場へ打って出ざるを得ない現実がある。

韓国は他にも、家計部門の巨額債務、巨大財閥への過度な依存、国内格差の拡大など深刻な問題を抱えている。

一方、日本は韓国や中国に次ぐペースの人口減少に直面しているとは言え、今なお1億人を超える国内市場を擁する。先行きの不透明感で言えば、韓国の方がよっぽど懸念材料が多く、深刻な状況を迎えていると見ることもできるだろう。

デジタル関連収支に注目する限りでは、韓国が日本と比較して強者だと言えるとしても、アメリカの巨大プラットフォーマーを駆逐して国内経済の屋台骨となるような何かが韓国にあるわけではない。

しかし、そうしたマクロ経済全体の議論は脇において、日本の隣国で巨大プラットフォーマーのサービスをあえて利用しないことで収支赤字を一定程度抑制できている現実は興味深く、参考にもなる

3月下旬、韓国史上最大規模のコンサートとなったBTSカムバック(兵役義務による活動休止を経た活動再開)公演の様子。
3月下旬、韓国史上最大規模のコンサートとなったBTSカムバック(兵役義務による活動休止を経た活動再開)公演の様子。
Kim Min-Hee/Pool via REUTERS

なお、デジタル赤字の問題が議論のテーマになる時、一足飛びに「なぜ日本にはグーグルのようなプラットフォーマーが生まれないのか」といった話になりがちだが、いきなりアメリカに憧憬を抱くのではなく、韓国の各種事例を研究してからでも遅くはないように筆者は思う(もはや手遅れとの見方もあるとは思うが)。

韓国には、漫画や音楽などのコンテンツを国産プラットフォームで運営する動きがある。

例えば、近年世界の音楽チャート上位を席巻し、ファンを熱狂させてきたK-POPについて言えば、BTSが所属するHYBEが設立した子会社のウィバース(Weverse)は、アーティストと全世界のファンが交流するコミュニティサービスから公式グッズの販売、ライブ配信までを担うプラットフォームを自前で運営し、手数料や顧客データを直接収集することに成功している

映画・ドラマに関しては、ネットフリックスという巨大インフラに乗ることで世界進出を果たしたものの、コンテンツを宣伝・輸出する手段として割り切って利用しているように見受けられる。

対する日本では、ネットフリックスは制作費の調達先や販路として注目されることが多い。依存度(足抜けの難しさ)の観点で考えると、日本の方がプラットフォーマーの提供するサービスにどっぷり浸かっている印象が否めない。

デジタル関連収支はアメリカの一人勝ち、といった大ざっぱな結論に流されがちだが、韓国の事例や取り組みにもっと目を向ける必要があるのではないか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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