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- IMF最新分析を熟読したら見えてきた「防衛費大幅増」の行く末。インフレ、円安の加速も

国際通貨基金(IMF)が4月14日に発表した「世界経済見通し」最新版は、中東地域における衝突など「紛争の期間と範囲が限定的」との仮定に基づき、世界の総合インフレ率は「2026年にやや加速した後、2027年には再び減速し始める」との予測を示した。
ただし、第1章の要旨には「一次産品価格の上昇、インフレ期待の強まり、金融環境のタイト化によって、最近見られた経済の底堅さが試されている」との記載もあり、エネルギー価格とインフレ期待(市場が織り込む物価上昇率見通し)、それに適応するための金融政策のあり方次第で帰結は変わり得ることには注意せねばならない。
筆者としては、第2章の「防衛支出:マクロ経済的影響とトレードオフ」で展開されている議論が非常に興味深かったので、ここでその内容を掘り下げてみたい。
今回の世界経済見通しでは、164カ国における第二次世界大戦以降の防衛支出の大幅増の事例を分析している。
それによれば、2020〜2024年に世界の国々の50%が防衛予算を増額。2024年時点で名目GDP(国内総生産)比2%以上の防衛費を支出した国は40%にも及んだ。2018年時点では27%だった【図表1】。

北大西洋条約機構(NATO)は2025年6月に開いた首脳会議で、加盟国の防衛・安全保障関連支出を2035年までにGDP比5%に引き上げる目標(うち従来的な意味での防衛費を3.5%、インフラやサイバー防衛など関連投資を1.5%)を設定しており、関係諸国も相応に追随する動きを見せると考えれば、防衛支出の拡大は世界経済における既定路線と認識すべきなのだろう。
防衛力強化を目指す巨額の財政出動が恒久化、固定化するのだとしたら、それがマクロ経済にもたらす影響や意味を検討しないわけにはいかない。
日本にとっては、その為替需給(分かりやすく言えば円売りと円買い)に及ぼす影響に限って考えても、無視できるような小さな話にはなり得ない。
防衛費の拡大はインフレ、円安を誘発する
第2章のタイトルに「トレードオフ」との表現が盛り込まれている通り、世界各国にとって既定路線となった防衛支出の拡大は、深刻なマクロ経済上の代償を伴う懸念がある。
世界経済見通しは「地政学的緊張と安全保障上の懸念の高まりに伴う防衛支出の拡大は、各国の財政、インフレ、そして経常収支に構造的かつ不可逆的な負荷をもたらす」と指摘する。
特に、防衛装備品の多くを輸入に頼る国・地域にとって、財政収支や経常収支の悪化は避けられないと警鐘を鳴らす。
また、第2章の防衛支出に関する分析結果は、粘着性の高い円安の要因の一つを経常収支の構造変化に求める見方を補強ないし正当化するものと、筆者には感じられた。
編集部注:経常収支の構造変化については、ここで詳細に説明すると本筋を逸脱してしまうため、過去記事を参照されたい。端的に言えば、日本の経常黒字をキャッシュフローベースで見た時、外貨のまま再投資されて国内に還流しない黒字部分が増え、為替相場を円高方向に動かす「円買い」が期待できなくなっており、それが円安定着の要因の一つだと唐鎌氏は指摘する。
例えば、防衛支出が大幅に増加する局面は、典型的に「2年半以上」継続し、「防衛支出がGDP比で約2.7ポイント増加」、その「約3分の2は財政赤字で賄われる」との指摘がある。
そのような防衛力増強の「着手から3年以内に、財政収支はGDP比で約2.6ポイント悪化し、公的債務は約7%増加する」という。
したがって、防衛力増強は「防衛関連分野を中心に消費と投資を刺激し、短期的には経済活動を押し上げるものの、一方でインフレを一時的に加速させ、中期的には深刻な問題を引き起こすことになる」と、IMFは警鐘を鳴らす。
日本もすでに防衛支出の拡大に舵を切っており、2027年度に関連費用を含めてGDP比2%とする目標を掲げていたが、2025年度に補正予算を積み増して前倒しで達成。2026年度当初予算については、防衛関連費がGDP比1.9%になったことを小泉防衛相が発表している。
日本はこれまで防衛費をGDP比1%以内に抑えてきたが、倍増目標の(恒久的な)達成はすでに秒読み段階にある。前節で触れたNATOの目標設定や韓国のGDP比3.5%への引き上げ表明など諸外国の動向を踏まえ、目標をさらに引き上げる可能性も否定できない。
そうだとすれば、IMFが指摘する防衛支出の大幅増が中長期的に公的債務(政府債務残高)やインフレを押し上げる展開、ひいては円安圧力が不可逆的に増大する展開が懸念されることになる。
防衛費拡大はデジタル赤字に似ている
ところで、防衛費の拡大は一国で完結できる措置ではない。高度な防衛装備品の調達は、アメリカをはじめとする外国からの購入が前提だ。
世界経済見通しは「世界最大の防衛関連企業による武器販売額は、実質ベースで過去20年間に倍増した」と指摘する。
この企業の国籍は記載されていないが、2020〜2024年に世界の武器輸出額の43%をアメリカが占めたとするストックホルム国際平和研究所の統計を踏まえると、防衛支出の大幅増がロッキード・マーティンやボーイング、RTXなどアメリカ企業の収益拡大に直結するのは確実だ。
そして、ひとたび国家の方針として採用されれば、景況の動向に振り回されることなく将来にわたって輸出入が継続するのが防衛装備品の特徴でもある。
日本を含む同盟国がアメリカから高度な防衛装備品を調達する際は、同国の武器輸出管理法などに基づく政府間取引の枠組みである「対外有償軍事援助(FMS)」に沿って行われる。
アメリカが自国の安全保障政策の一環として同盟国に装備品を有償提供する(若干意訳すれば、売ってあげる)枠組みで、販売価格はアメリカ主導で設定され、原則前払いにもかかわらず、納期・価格ともに変更があり得るという、売り手に極めて有利な条件設定となっている。
そもそもにしてアメリカ製品のシェアが圧倒的な上に、全ての取引がこの枠組みに沿って行われるため、日本を含む同盟国などの防衛費拡大はアメリカへの恒常的な所得移転を約束することになる。少なくとも現時点ではそのような側面がある。
防衛装備品は、必需品ながら価格決定権や製品の品質が売り手に委ねられている(専門的に言えば、需要の価格弾力性が低い)輸入品という意味で、伝統的な製品であれば石油、近年ではAIツールやクラウドツールのようなデジタルサービスによく似ている。
石油もデジタルサービスも、海外企業への外貨支払いが不可逆的に増える取引であり、構造的な円売り圧力を加速させる要因と位置づけられる。防衛装備品もまさにそうした存在になる恐れがある。
防衛費拡大に「乗数効果」は期待できない
なお、防衛費の拡大は「乗数効果も踏まえれば、経済にとってネガティブな話ばかりではない」との指摘もある。
しかし、結論から言えば、ポジティブな話はあまり期待できない。
上の指摘に出てくる「乗数効果」とは、政府による支出や投資の増加が、民間企業などの消費や投資を連鎖的に誘発することで、最終的に当初の投入額を上回る経済効果を指す。
仮に乗数効果を1.3とするなら、100億円の初期投資は最終的に130億円の経済効果をもたらすことになる。
しかし、世界経済見通しはおおむね次のように指摘する。
防衛支出の乗数効果は平均すると1程度だが、支出がどのように維持継続されるか、財源はどうやって調達し、どのように配分するのか、装備品のどの程度を輸入品に頼るのか次第で大きく変動し得る。
防衛費の拡大が主に財政赤字で賄われ、装備品を購入するための支出増加だけで終わる場合、短期的な需要の押し上げ効果は得られたとしても、景気を過熱させるリスクを伴う。そのため、金融政策との緊密な協調が必要になる、と。
例えば、アメリカからミサイル1発を5億円で購入する場合、それ単体としては統計上の輸入額が増えるだけで、物価にも特段の影響はない。
しかし、輸入したミサイルの配備や保管、運用訓練、国内企業によるメンテナンスなどが発生するため、ある程度の景気刺激が想定される。国債を発行して防衛費に充当する場合も(政府支出なので)GDPを押し上げ、やはり景気刺激となる。
そのような景気刺激が過熱の領域に足を踏み入れ、乗数効果を減殺してしまう展開も想定されるため、金融政策による抑制が手段として不可欠というわけだ。
一方、アメリカから購入するのではなく、国内での公共投資を優先することで、防衛関連企業が装備品を生産するためにより統合された市場を形成するような防衛費の拡大の場合、長期的な生産性向上を下支えすることで、乗数効果を期待できるかもしれない。
そう考えると、防衛費の拡大がアメリカからの装備品購入に直結しがちな日本(防衛白書には「一般では調達できない機密性の高い装備品や能力の高い装備品を調達できる」といった説明書きもある)では、乗数効果を期待するハードルは高いと言わざるを得ない。




























