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京都市営バスの“全国初”「二重価格」導入、識者「国内観光の縮小リスクあり」と警鐘──オーバーツーリズムの解決策とは【専門家解説】

訪日観光客(インバウンド客)の増加で、オーバーツーリズム(観光公害)が課題となる中、京都市が市営バスへの「二重価格」導入に向けた議論を本格化させている。京都市交通局が導入を目指す「市民優先価格」は、市民向けには現行の230円から200円に値下げし、市民以外には350〜400円への値上げするというもので、2027年度中の導入を目指している。
こうした市の取り組みを専門家はどう見ているのか。元NHKディレクターで『観光公害──インバウンド4000万人時代の副作用』(祥伝社)などの著作がある、「みらい観光文化リサーチベース」の佐滝剛弘代表は「課題が多すぎる」「国内の観光需要全体を縮小させるリスクがある」とし、効果に疑問を呈する。
佐滝剛弘(さたき・よしひろ)/みらい観光文化リサーチベース代表 1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業後、NHKに入局。ディレクターとして「クローズアップ現代」など報道番組の制作を手がけた。観光・交通政策に加え、世界遺産検定の最高位「マイスター級」取得者として、各国の世界遺産などを取材し続けている。主な著書に『高速道路ファン手帳』(中公新書ラクレ)、『観光消滅 観光立国の実像と虚像』(中公新書ラクレ)など。
「二重価格導入国は途上国が中心で、外貨獲得が目的」
佐滝氏は二重価格について「同一のサービスを受ける際に値段が違うということを二重価格と定義するのであれば、敬老パスや、かつてあった映画館のレディースデーなど日本での二重価格の歴史は意外と長い。導入にあたっては納得感が求められる」と話す。
これまで専門家として世界70カ国以上を訪問し、多くの二重価格の導入ケースを見てきたという佐滝氏。エジプトやタイ、ヨルダンなど二重価格を導入してきた国は「大半が一人当たりGDPが日本以下の途上国で、外国人観光客からの外貨獲得を目的としている」と解説する。

最近ではアメリカの国立公園やフランスの「ルーブル美術館」が外国人観光客に二重価格を導入するケースがあるが「あくまで例外」とし「二重価格導入は日本が途上国になったのかと突きつけられている」と厳しい論調だ。

「国内の観光需要を縮小させるリスクあり」
そんな佐滝氏は京都市の二重価格をどう見ているのか。佐滝氏は「京都市の二重価格の取り組みを直接的なオーバーツーリズム対策として扱うのは間違い」とした上で「観光客のバス利用者がタクシーなどに逃げれば、現状の道路渋滞を加速させる可能性がある。市民のことだけを考えた政策ではないか」と課題を指摘する。
市バス運転手への負担増も効果を疑問視する理由の一つだ。京都市交通局は現在、群馬県前橋市が手がける「GunMaaS」(旧MaeMaaS)を参考にマイナンバーカードと交通系ICカードの紐付けを軸に検討している。専用サイトなどでマイナ情報を紐付けた交通系ICカードで運賃を支払えば、自動的に市民割引が適用されるという仕組みだ。

佐滝氏は「国民全員がマイナカードを保有しているとはいえない中、マイナカードとの紐づけを忘れた市民が『私は市民だ』と言い張れば、トラブルになる可能性がある。海外で公共交通機関の運転手が運賃処理までするケースは少ない。乗客全員が交通系ICカードを利用するとも限らない。遅延のプレッシャーを抱える運転手が、1人1人の属性を確認しなければならないのは過大な負担になる」と主張する。
市はマイナカードを持たない市民への対応については、顔写真付き証明書による登録など複数の方法を検討しているが、最終決定には至っていない。任天堂や京セラ、ワコールなどの本社があり、大学数や学生数でも日本有数の規模を誇る京都だが、住民票を京都市に移していない大学生など、市内在住者の扱いも課題として残る。
佐滝氏は続けて「同様のことが大阪や神戸、広島でも起きると、日本中のあらゆる料金が2倍・3倍になる可能性がある。相次ぐ物価高によって日本人の旅行需要減が囁かれる中で二重価格のような事実上の値上げが重なれば、国内の観光需要全体を縮小させるリスクがある」と警鐘を鳴らす。
二重価格=訪日客向け施策とのイメージが強く、一見すると「自分には関係ない話」と見られがちだが、やがて自分自身に跳ね返ってくる —— というのが佐滝氏の見立てだ。
「中国政府の渡航自粛継続や中東情勢が悪化しているように訪日客は突然来なくなることがある。インバウンドを当てにして価格設定をすると、需要が急減した時に苦境に陥る。結局、日本人料金も上げざるを得なくなるのではないか」(佐滝氏)
姫路城は二重価格導入で収入倍増も、日本人来場者2割減
世界遺産「姫路城」も入場料を変更し、2026年3月から市民向けの入場料は従来の1000円(18歳以上の大人)に据え置く一方、市民以外には2500円(同)に引き上げた。

姫路市の清元秀泰市長は4月7日の定例会見で「収入は約2億7000万円(2026年3月)と、前年同期の約1億4000万円からほぼ倍増となった」と言うが、日本人の来場者数は20%減少したとも明かした。
「周囲の商店の客足が減少したのでは」との報道陣からの指摘に、姫路市の清元市長は「周囲への影響についてはもう少し長い目で見たい」と述べるにとどめている。

佐滝氏は「訪日客は一生に一度しか来ないと考えると、多少高くても来る。姫路市の事例のように、全体での効果を考えなければならない」とした。
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