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一生に一度は見たい東京美術案内
一生に一度は見たい、ゴヤの銅版画。有名宮廷画家の怒れる「もう一つの顔」(町田市立国際版画美術館)

美術評論家・ノンフィクション作家の野地秩嘉が、社会人の教養として「一生に一度は見たい美術品」をご紹介。今回は町田市立国際版画美術館が所蔵するゴヤの感情が映し出された銅版画《祖父の代まで》(『ロス・カプリチョス』より)にフィーチャーします。
「ロバ」は名門に生まれた人間か
『ロス・カプリチョス』は1799年に出版された全80点からなる銅版画集だ。作者のフランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828年)はディエゴ・ベラスケス(1599-1660年)と同じくスペインの宮廷画家として知られる。代表作には《裸のマハ/着衣のマハ》《1808年5月3日、マドリード》《カルロス4世の家族》などがある。
ゴヤは46歳の時に聴力を失った。その後、「聾の家」と呼んだ別荘を購入し、そこに暮らした。ゴヤは「聾の家」のサロンや食堂を飾るために14枚の絵を描く。それが「黒い絵」と通称されるシリーズで、《我が子を食らうサトゥルヌス》などの絵がある。
『ロス・カプリチョス』は53歳の時に発表した。題名に使われている「カプリーチョ」という言葉は「突拍子もない行い」「理性ではなく、気まぐれやこだわりによってなされる人の行い」を意味する。
その中の1枚、《祖父の代まで》はロバが上等な服を着て家系図(ロバの家系図)を見て、悦に入っている様子だ。スペインの貴族階級の人間をロバの姿にして、愚かさを笑った絵柄になっている。この1枚だけを見ると、上流階級を笑う皮肉な作品だという印象しか浮かばない。
しかし、『ロス・カプリチョス』の他の版画を見ると、こんなものではない。相当、過激だ。自身も上流階級にいるゴヤが仲間であるはずの貴族や上流階級の人間をヤギ、ロバ、魔女、モンスターとして描いている。当時のスペインでは許されなかっただろう。
ゴヤは『ロス・カプリチョス』で当時のスペイン社会のあり方を風刺したというより、徹底的にバカにしたのである。
《祖父の代まで》が版画である意味
町田市立国際版画美術館の解説にはこうある。
「家系図を手に得意そうな顔のロバ。机には紋章が飾られ、かなりの名門であることを示しています。しかしロバには『愚か者』のイメージがあることから、ゴヤは血筋しか誇るものがない貴族階級、さらには家柄さえよければどんな者でも地位が得られる身分制度を批判していると考えられます。
(中略)アクアチントによるハーフトーンだけで描かれています。アクアチントは水彩画のような濃淡の効果を出すために考案された技法で、主に水彩画などを複製した多色刷り銅版に多く用いられていました。ゴヤはこの技法を使いこなし、ロバの身体や開いた本の立体感や、背後に広がる漠然とした空間などの表現に活かしています」
(町田市立国際版画美術館公式サイトより引用)

同館学芸員の髙野詩織さんは、この版画について次のように解説してくれた。
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