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- ヒマラヤ移住した建築家兄弟、約480万円で「ハリポタ」みたいなヴィラを手造り。車では行けないが、エアビーで人気だ

- ラガブ・クマール氏とアンシュ・クマール氏の兄弟は、都会生活を捨ててヒマラヤに移住し、自分たちの手で家を建てた。
- 建築学を専攻した2人は、自然素材でも耐久性があり、しかもラグジュアリーな空間を作れることを証明したかったという。
- 3年がかりで完成したその家は、現在エアビー(Airbnb)の宿として稼働している。
ヒマラヤに近い丘の中腹に、2人の兄弟が泥と石、藁を使って手造りした、おとぎ話に登場するような家が建っている。
ニューデリー出身の建築家兄弟、アンシュ氏とラガブ氏のクマール兄弟は、大企業中心の都市生活の騒音と混沌から逃れるため、インド北部の辺鄙な町に移住し、現在エアビー(Airbnb)に掲載している家を建てた。
「ハリー・ポッターの家みたいだと言う人もいれば、ホビットの家やおとぎ話の家と言う人もいる」と、32歳のラガブ氏は語る。

「僕たちにとってこれは愛の結晶。建物のすべての曲線が、ここを訪れ、力を貸してくれた素晴らしい人々のストーリーを物語っているんだ」
企業社会で燃え尽きた
ラガブ氏は建築学校を卒業後、ドイツの建築会社でインターンを経験し、アーメダバードを拠点とする別のドイツ企業に正社員として入社した。職場の文化や人間関係、そして風通しのいいフラットな組織体制は気に入っていたが、長時間労働には悩まされたという。
「企業という組織の中にいると、長時間働くことこそが勲章であるかのように信じ込まされてしまう雰囲気がある」と彼は言う。「締め切りに追われ、48時間ぶっ続けで働いた日もあった」
ラガブ氏はまた、建築家と現場の作業員との間に断絶があるとも感じていた。
「建築家はエアコンの効いたオフィスに座って、ビジョナリーな夢を描き設計する。その一方で、実際にそのプロジェクトを形にする現場の人たちには何の評価も与えられない」とラガブ氏は指摘する。「僕たちは建築家として、一つのプロジェクトにどれほどの肉体労働が注ぎ込まれているかを本当に理解し、評価することができていない」。
ドイツ企業で働いていた3年間、彼はストレスを解消するために旅行の頻度を増やし、人里離れたインドの山岳地帯を訪れるようになった。
彼は「自分が週末のためだけに生きていることに気づいた」と振り返る。「そのとき、出世の階段を昇り続けるような人生は送りたくないと悟った」。
29歳の弟アンシュ氏もまた、ドイツでインターンを経験したのち、インドの山岳地帯や農村部でサステナブル建築のプロジェクトにフリーランスとして携わり、山での暮らしに魅力を感じるようになっていた。
パンデミックのさなか、ニューデリーの自宅で隔離生活を送っていた2人は、自分たちで独自の建築素材を作る実験を始めた。自家栽培したキノコから菌糸体(マイセリウム)を採取してテストをしたり、土・藁・水を混ぜて作る「コブ(cob)」という天然素材の製法を学んだりした。
都市の喧騒を離れ、山の中に家を建てるというアイデアが芽生えたのは、まさにこの頃だった。
「新型コロナウイルスは、人生は短いということを教えてくれた」とラガブ氏は言う。「思い切って未知の世界に飛び込む必要があると、2人で決めたんだ」。
「ヨガの聖地」リシケシュに移住

2人が選んだのは、ヒマラヤ山麓に位置し、インドの「ヨガの聖地」として知られるリシケシュだった。ニューデリーから北東へ約150マイル(約241km)の距離にある。
ガンジス川のほとりに築かれたリシケシュは古くから巡礼の地として栄えてきたが、近年はデジタルノマドにも人気で、おしゃれなカフェ、企業の研修や心身を癒すための施設が集まる注目のスポットに変貌を遂げている。
2人は家族の友人からリシケシュの土地を借り、そこにサステナブルな建物を建てることを約束した。そして2021年3月、荷物をまとめてリシケシュ近郊の小さな村に移り住んだ。
「車を降りた場所から、ガンジス川の支流に架かった木の橋を歩いて渡らなければならない」と、アンシュ氏は説明した。「そこからさらに1マイル(約1.6km)以上山道を歩いてようやく村にたどり着く。それも難関だった」。
18カ国100人超のボランティアが手伝ってくれた

それまで行っていた建築の仕事では、2人はソフトウェアを使ってコンセプトドローイング(概念図)を作っていた。しかしここでは、周囲に落ちている木の枝や石を使い、地面に直接間取りを描いていった。
そして、建設段階に入った。彼らは何千もの岩を建設現場まで運び上げ、ラバの背中に砂を積んで山道を運搬し、その他資材のほとんどを家の周辺から集めてきた。
作業に関しては「ワーカウェイ(Workaway)」を使ってボランティアを募集した。食事と宿泊を提供するホストと、それと引き換えに一定時間の作業を手伝う旅行者をつなぐマッチングサービスだ。
兄弟の推定では、家が完成するまでの3年間で18カ国から100人以上のボランティアが建設工事に携わり、地元で約20人の作業員も雇ったという。
総工費は、自分たちの貯蓄と両親からの出資を合わせて約3万ドル(約480万円、1ドル=160円)だった。

「毎日どのくらい進んだかが見れば分かる。1日に約6インチから1フィート(約15〜30cm)ずつ高くなっていった」と、アンシュ氏は振り返った。「企業の世界でノートパソコンの前に8時間座り続け、疲れ果てているのに『結局何も成し遂げられなかった』と感じるのとは大違いだった。本当に大きなやり甲斐を感じた」
そして2024年、ついに家が完成した。

完成したこのプロジェクトを、ラガブ氏は「生きた彫刻」と呼んでいる。
全体が有機的な曲線に満ちており、おとぎ話に出てくるような風変わりな茅葺き屋根と、壁一面に刻まれた螺旋模様が目を引く。
彼らは2024年4月、この2ベッドルーム・1バスルームの家をAirbnbに掲載し、1泊約140ドル(約2万2400円)で貸し出している。

エアビーのリスティングページにはこう記載されている。「バックパックを背負って森の中を1.5km歩くことに抵抗がない方のみご予約ください。車での乗り入れはできません。森の中にWi-Fiはありませんが、その代わり、自分自身や大切な人、そして自分の情熱とより深いつながりを感じることができるでしょう」。
2人によると、予約の稼働率は約60%に上っているという。
いまが人生で最も体調がいい

現在、2人はリシケシュに建築・デザインスタジオを構え、インド各地で自然素材を使った建築プロジェクトに取り組んでいる。
リシケシュでスタジオを運営することには課題もある。ネット回線が不安定で、彼らは衛星通信「スターリンク(Starlink)」が使えるようになることを心待ちにしている。また、野生のゾウが生息する森の近くに家があるため、安全面の対策も欠かせない。
それでも、山での暮らしは彼らを変えた。
「ここに暮らすようになってから、僕たちは心身ともに人生で一番いい状態になった」とラガブ氏は話す。リシケシュでの生活を始めた初日、2人は現場まで歩いただけで息を切らしていたが、いまは1日に4回も往復できるようになった。
「1万歩を歩いていることに気づきすらしない。四方を自然に囲まれ、空気はきれいで、抱えている不安がすっと消えていくのを感じるんだ」。ラガブ氏はそう語った。





























